不思議な気持ち
「そう言えば、この間屋上で何で泣いてたの?」
電車を降り、学校までの通学路。
こうやって歩いてると本当に翔太と歩いている感じがする。
そんな中での唐突すぎる質問に足が止まってしまった。
「別に言いたくないならいいけど」
無言の私の答えを受け止めた、ショウタくんが自分の髪の毛に手をやった。
ショウタくんは両手で自分の髪を触るクセがあった。
それは翔太にはない癖だった。
いつも身だしなみに気を付けている翔太は、身の回りの事にもきちんと気を使っていて、自分の部屋もめちゃくちゃキレイだし。
片付けが苦手な私とは大違い。
翔太の事を意識する前の私はそんな几帳面すぎる彼を見て、この人が彼氏だったら大変だろうなーって思ってた。
翔太は私のどこが良かったのだろう?
翔太から見たら、私のいいとこなんて一つもないはず。
整理整頓大嫌い。
何をするのにもどんくさくて、いつも翔太の足を引っ張ってばかりいた。
「先輩とは毎朝電車の中で会ってましたけど、一言も会話したことありませんでしたよね。先輩、いつも難しそうな本読んでたし」
難しそうな本?
私が?
正直、私は本を読むのが苦手で電車の中では、ウォークマンを聴くかスマホをいじっているかどっちかしか無かった。
「あ、でも一度だけ。話した事ありましたね」
「…。」
「電車の中で、オレの咳が止まらなくて、むせってた時、先輩がイチゴミルクの飴をくれて、喉飴じゃなくてごめんねって。正直オレ甘いもんあんまり口にしなかったんだけど、その時もらった飴がうまくて、それからオレいつも鞄にその飴入れておくことにしたんだ。でも、先輩から貰わなかったらきっと絶対に舐めない飴だったなー。基本オレ、飲み物とかもミルクの入ってる物飲まないし…」
そんなやりとりがあったんだ。
それで、あの時イチゴミルク飴を私にくれたんだね。
何だろう?
今一瞬すごく嬉しいって思った。
私の中に私以外の感情が心に入ってきた気がした。
こんな不思議な気持ち初めて感じる。
これは、もしかして、本当の音無良夢の感情?
ダメだ、あまり考えると頭の中がパニックになる。
その時、また誰かの視線を感じた。
いつもよりずっと近くに感じたのに、結局その正体は分からなかった。
「先輩?」
ショウタくんが怪訝そうに私を見る。
「どうしたんすか?」
「ううん、何でもない。ただ、誰かに見られていたようなそんな気がして…」
そこで、ショウタくんが一度言葉を止め、私をじっと見つめてきた。
こんな状況なのにドキドキしてしまう。
「先輩って?本当に俺と毎朝会ってた先輩っすか?」
「え?」
唐突なショウタくんの質問に驚いて声が出ない。
ショウタくんが右手の親指と人指し指で自分の顎に触れて、考え込む仕草をした。
「…、パラレルトラベラー?あれは夢じゃなかったのか?」
そして、訳の分からない言葉を発したあと私をじっと見つめた。
「先輩、今日放課後何か予定ありますか?」
「え?」
「もし用が無かったら、俺と一緒に帰らない?」
敬語になれていないのか所々でタメ口になってくる。
私としてはタメ口の方が全然いいけど。
「大丈夫なら、先輩の教室に迎えに行くね」
しばらく待って返事が無くてしびれを切らしたのか、ショウタくんの一方的な言葉で会話が終わった。