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貴方だけがいない

私は、自分の部屋に戻らず、玄関を飛び出した。

でも…いつも私を待ってくれているはずの翔太の姿は無かった。


(嘘、翔太が私を置いていくなんてある訳ないのに)

いいようのない不安が胸に広がる。なんだか嫌な予感がする。


とりあえず学校へ向かう電車に乗り込む。

そこで、また違和感を感じる。窓の外を流れている、高校へ向かうまでの景色もいつもと若干違う。

あんなとこにドラッグストアの看板なんて無かった。


学校近くの駅に着き、徒歩10分ほどにある近未来型のような鉄工でできたお洒落な学校へと向かう。

(なんだろう、胸騒ぎがする)

私の教室の位置や大まかなところは、元の世界と同じ。でもやっぱり少しづつどこかが違う。



翔太とは二年になって同じクラスになった。すごく嬉しかったのを覚えている。なのに教室にも翔太の姿はなっかた。


「何で..?」


「翔太がいないの?」


少し泣きそうになったとき、すぐ隣で聞き覚えのある声がした。

「良夢ー。今日放課後カラオケ行かない?」

私の親友、スタイルが良くて色白でツインテールをした女子生徒のアミが教室に入って来てすぐに話しかけてきた。

アミの姿を見て心が少し救われたのも束の間だった。


「いいねぇ。わたしもいれてよユカ」

もう一人、クラスメイトのマリがアミの事をユカと呼んだのだ。

「ごめん美咲。今日は良夢と二人で行きたいんだ美咲とはまたこんどでいい?」


(まただ。顔は同じなのに名前が違う。アミがユカ?マリが美咲?)


「ごめん。今日はちょっと..」

(どうしよう顔は同じなのに、名前だけでなく何かが違う?妹みたいにどこかが違う?)


曖昧な私の返事が気に入らなかったのか、ユカがプイと唇を尖らした。


「ここんとこ、良夢の付き合い悪くない?全然遊んでくれないし」

あ、やっぱりこの子は本当に可愛い。

この子がアミであってもユカであっても可愛いことは変わらない。

こうやって膨れてる顔をしても可愛い。私の知っている一番の親友のアミは容姿端麗でとても可愛い女の子だ。

気が利くし、人の心をちゃんと読んでその人が何を望んでいるか分かってくれる女の子だ。

でもアミは今時珍しくカラオケが好きではないのだ。

カラオケ…。

そんな単純な言葉でも翔太を思い出してしまう。

翔太もカラオケ好きじゃなかったよね。

だから、カラオケに行きたかった私はアミも翔太も誘えずヒトカラしたことも度々あった。


(アミそっくりのこの子はやっぱり私の知っている親友とは違うらしい。この子がアミだったら。アミにだったら何でも打ち明けられたのに。今の状況を誰にも話すことができない)



始業のベルが鳴り響く。


結局翔太はあらわれなかった。


いつもと少し違う教室。いつもと同じ顔ぶれのクラスメイト達。


ただいつも一番近くにいたはずの翔太だけがいない。

誰もそのことを気にしない。

教室の席は一人分少なくて、


「よし、今日は欠席者はなしだな」

いつもと同じ顔をした担任の声が響く。


なんだか泣きたくなってきた。

何が起こったのかさっぱりわからないまま不安な一日が始まる。



 -*****- -*****-



あれはいつのことだっただろう。付き合い始めて数ヵ月、梅雨に入ったばかりの雨の日。翔太に言われた言葉。

「オレは架菜が思うよりずっと前から架菜のこと見てたから、架菜が今どんな気持ちでいるかすぐに分かるよ。架菜が不安な時は必ず俺がそばに行くから」

この言葉をかけてくれた直後は本当に嬉しかったのを覚えている。


でもそれは一瞬のこと。またすぐに違う言葉を望んでしまう自分がいた。

私って欲張りだよね?

翔太に告白する前は、ただ想いが伝えられればいいやって思ってた。

もし、仮に残念な結果になったとしても翔太に気持ちを伝えたかった。

でも、今振り返るとあの時の勇気にはずっと一緒に過ごした時間が支えにあって、心のどこかで翔太は私の気持ちを受け入れてくれるって自信があった気がする。

それでも、想いを口にした私の勇気で新しい一歩が踏み出せた。


それから?


それから、翔太からの最良の言葉をもらえて幸せなはずじゃなかった?

どうして、次から次へと望んでしまうのだろう?

メールの返事が来ないだけでやきもきしたり、翔太が他の女の子と話してるだけですごい嫉妬を感じたり。


(嫌な自分が顔をだす)


例えば、翔太がいつも私に好きと言う言葉をくれる人だったらこんなに不安を感じなかった?

ううん、それでも不安は感じてたと思う。

人間言葉だけだったら何とでも言えるから。

結局、人間は自分勝手な生き物だよね。



(翔太どこにいるの。私がこんなに苦しんでいるのに、こんなに不安なのに翔太はどうして助けに来てきれないの?)


翔太に会いたい。


そんな私の気持ちをよそに始業のベルが鳴り響く。


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