最後の夜
「架菜さん。架菜さん。」
私の肩に手を載せられている感触がした。
遠くから、私を呼ぶ声がする。
翔太?ショウタくん?
私は目を開けた。
ここは。ファーストフード店の一番奥の席、そうだ、私はここで働いてた。
翔太は?翔太はどこ?
「翔太?」
目の前に翔太が…。
「架菜さん、大丈夫?」
違う、彼は翔太じゃない。
「ショウタくん…。」
ああ、そうだ、ここは私のよく知っている世界ではない。
私は、現実から逃げるために、パラレルトラベラーとして、ここの世界に来たんだ。
「大丈夫?」
ショウタくんに返事しないと。
でも、全て分かった今でも頭が混乱していて何て言っていいのか分からない。
「ショウタくん…。私元の世界に帰らないと。」
それだけ言うのがやっとだった。
翔太が私を待っている。
私はここにいちゃいけない。
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その日の夜、町一体が見渡せる丘の上に私たちは来ていた。
最後に、この世界のこの町を見ておきたかった。
出会うことの無かった、私と翔太が住んでいる世界を。
「パラレルワールドって本当にあったんだな。」
出会うべきの人。
決して出会わない人。
あらゆる側面で、パラレルワールドは存在する。
「決して出会うことの無かったショウタくんに出会えて良かった。」
違う世界でも翔太は翔太だった。
「オレもだよ。架菜さんに出会えて良かったよ。」
「この世界の私も大切にしてあげてね。」
良夢さんはいつか自分の想いをショウタくんに打ち明けるかもしれない。
その結果がどうなるか分からないけど、動き出すことに意味があると思う。
この世界に来てショウタくんに出会えたおかげで頑張れた。
「架菜さんも向こうの世界のオレをこれからもよろしくな。」
きっと私は、どこの世界にいても翔太を必ず見付けて、翔太に恋をする。
12時に近づき、精神が移動するのが分かる。
「さよなら、ショウタくん。またね。」
またね…ってもう会える訳ないのに、それでもそう言わずにはいられなかった。
「ああ、またな。」
さよなら、ショウタくん…。
ありがとう。
私はパラレルトラベラーとしての力を失った…。