鏡
ショウタくんに教えられた携帯番号をダイヤルしてみる。
『はい。』
ショウタくんの声。
「わ、たし架菜…。」
『だと思った。』
「あのね…。」
そこで、自分が何を言いたいのか分からなくなってしまった。
良夢さんの気持ちに気付き、勢いに任せてショウタくんに電話したものの、何を話せばいいの?
『どうした?』
「うん…。ごめん、何でもない。」
歯切れの悪い私の言葉にいささか不信感を感じたらしく、
『大丈夫?』
「…。うん。」
大丈夫?と聞かれたなら、うんと言うしかなかった。
良夢がずっと隠していた想いに気付いたからって、何て言えばいいの?
『何か思い出したのかと思った。』
「ううん。ごめん。」
『謝らなくていいよ。』
そこで、電話の向こう側からショウタくんの名前を呼ぶ声が聞こえた。
『あ、お母さんが呼んでる。』
「うん。また後でね。」
『うん。またね。』
電話を切ってからもどうしていいか分からず、落ち着かなかった。
良夢さんはショウタくんが好き。
それなら、良夢さんの意識は今どこにあるの?
良夢さんは今どこに…?
あ。
私はあることに気付いてしまった。
たまに私を見ている視線。
ショウタくんと一緒にいるとき、感じる事が多い。
あれは良夢さん?
一度自分の霊体のようなものが見えた事を思い出した。
でも、あれが良夢さんだとしたら…。
良夢さんの意識が体外に出てる。
どうして?
良夢さんの部屋に置いてある全身を写す鏡。
鏡の中の私が私を直視している。
そして、右手を私に近付けた。
え?
私のしていない動き…。
何?
怪奇現象?
しかし、それは一瞬のことだった。
次の瞬間には普通の鏡に戻っていた。
あれ?
こんなこと前にもあった?
****
「架菜?」
バイト先へ向かう先、突然立ち止まった私に翔太が心配そうな顔を見せる。
「どうした、架菜?」
「う…。うん、誰かに見られてる気がして。」
「え?」
今誰かの強い視線を感じた。
「きっと気のせいだね。」
そう言ったけど、視線を感じたのは確かだった。
でも、辺りを見回したけど、誰もいないのも事実で気のせいと認めるしかなかった。
「今日もバイト、めんどいな。」
「でも、頑張ろう。翔太の誕生日の旅行のために今からお金貯めないと。」
「そぉだな。」
再来月翔太の誕生日に日帰り旅行に行くって約束したから、そのために今からお金貯めないと。
バイト先のファーストフード店に着き、制服に着替える。
更衣室にある鏡で、髪を結ってると、鏡の自分が何の動きもせずにこっちを見ている事に気が付いた。
何?これ?
怖くて声も出ない。
すると鏡の自分が右手を差し出し…。
******
そうだ、元の世界にいた頃そんなことがあった。
あと後…。どうなった?
今と同じように一瞬の出来事だった気がするけど、思い出せなかった。




