良夢のこと
「あ、そうだ。今さらだけど。」
公園を出てすぐに、ショウタくんは思い出したように、小さな紙を私に渡してきた。
「オレの携帯番号とラインのIDっす。」
携帯…。
そうだ、私ここの世界に来てから良夢さんの携帯触ってない!
携帯さえ見付ければ、今まで分からなかった良夢さんのこと少し分かるかもしれない。
良夢さんの交友関係とか、色々…。
何でこんな簡単なことに今まで気付かなかったんだろう?
「私、家帰って、良夢さんの携帯探す。また明日ね。ショウタくん。」
そう言って走り出す私の行動に少々呆気に取られたようだったけど、
「携帯見付かったら、すぐに連絡してくださいねー。」
背後からそんな声がした。
ごめんね、ショウタくん。
私は心の中で謝った。
*******
「た、だいまー。」
息を切らし、靴を脱ぎ捨てるように部屋に入った。
「お姉ちゃん。そんなに慌ててどうした?」
「ああ、音色。私の携帯ってどんな色でいつもどこにしまってる?」
私の足音を聞きつけた音色が、驚いた顔つきで玄関に来た。
そんな音色に立て続けに捲し立てるから、音色は困ったように、
「お姉ちゃんどうしたの?ちょっと落ち着いて。お姉ちゃんの携帯はスカイブルーで、いつもしまってるとこ…?分かんないけど、多分、本棚の一番上の段の右側にスマホのスタンドがあった気がする。」
「ありがとう。」
階段を駆け上り、自分の部屋に入る。
本棚、本棚…。一番上の段…。
てか、ここの世界に来て本棚なんて初めて見る。
あ…。
前にショウタくんが言ってた通り、難しい本ばかり置いてある。
よくこんな分厚くて、小さい字ばかり並んでるの読めるね…。
って他人事のように感心してしまった。
今はそんなことより、携帯ー。
あった。
ピンクの椅子型のスタンドにスカイブルーのスマホが置いてあった。
さすがにもう充電は終わっていた。
充電器…。
部屋の隅にあるコンセントの差し込み口に黒のケーブルが繋がっていたのが見えた。
これかな?
スマホに差し込んでみると、ぴったり入った。
軽く深呼吸して、スマホの電源を入れてみた。
電源の入る可愛い音がした。
何か人の携帯見るとか、気が引ける。
ここの世界では私が良夢さんなのだけど。
つい数週間前までは、全くの別人だった訳だから、何か盗み見してるみたい。
でも…。
決心した私は、まずラインを開いてみた。
ラインは…。
グループラインはしてないみたい。
ライントークもほぼユカとしかしてないみたい。
ユカとの内容も、明日の数学の課題とかで、ごく普通の会話だった。
こうやって見ると、やっぱり彼氏とかはいないみたい。
あれ?これって?
ギャラリーのデータを見ていると、一枚だけぼやけた写真が気になった。
何だろう?これ?体育祭?
背景の風景は体育祭っぽいけど、だいぶ遠くから撮ったようで肝心の人物はぼやけてはっきりしない。
それでも、分かってしまった。
これは…。ショウタくんだ。
間違いないショウタくんだ…。
その時、ショウタくんが言ってた一言を思い出した。
イチゴミルク飴…。
良夢さんはショウタくんの事を…。
想っていた…。




