この世界で…。
ここには、貴方を思い出せる物が無い。
貴方と一緒に歩いた場所。
貴方と一緒に見た景色。
どれもここには一つも無いから。
どこか似ているけど、どこか違っていて、貴方を思い出すには充分な要素ではない。
それでも、私は毎日毎日貴方の事を考えている。
それは、きっとこの世界にショウタくんがいてくれたから。
人との出会いは本当に奇跡のようなもので、ほんの少し一瞬でもその奇跡を見逃してしまったら、出会えない人はたくさんいる。
そして、出会えた人とは何かしらの意味があると思う。
どうして私がこの世界に来たのか?
それはまだ分からないけど、この世界に翔太を思い出せるショウタくんがいる、ただそれだけがここで生きる私の救いだった。
「先輩。一緒に帰りましょう。」
放課後になると、あれから、毎日ショウタくんが私の教室へ迎えに来てくれる。
「良夢いいなー。行きも帰りも井川くんと一緒にいれて…。」
アミの冷やかしにも今ではすっかり慣れた。
「でもさ。」
と言葉を続ける。
「ここしばらくの良夢、人が変わったように塞ぎこんでたじゃん。何かあったのかなってすっごく心配だったけど、良夢は悩み事とかってあまり話したがらないから自分から話してくれるまで待ってた。そんな良夢が元気になってくれて良かったなって。これも全部井川くんのおかげだとしたら井川んに感謝しなきやって思うんだよね。」
あ…。
そんな風に思ってくれてたんだ。
私が私じゃなかったことに気付いてくれていたんだね。
良夢はいい親友に巡りあえて良かったね。
私の親友のユカも今の私を心配してくれてると思う。
ああ、ユカに会いたくなる。
「あ、ごめん、井川くんが待ってるのに…。」
ちょっと悪びれたような顔をした、アミが私の背中を押した。
「ありがとう、アミ。」
きっと、良夢さんもこう言ったと思うから。
「たまには、カラオケ付き合ってね。何なら井川くんも一緒でもいいよ。」
ニカッと笑うアミに私は手を振った。
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「架菜さん、何かいいことあったんですか?」
学校を出てすぐに翔太くんに言われた。
夕暮れの日差しがまだまだ暑くて、歩く度に汗が滲んでくる。
「え?よく分かったね。」
「架菜さん、分かりやすいから。」
昔、元の世界の翔太にもそんな風に言われた事を思い出した。
「さっき話してた子ね、良夢さんの一番の親友で、私の元の世界にいる私の親友にそっくりなの。」
「なるほど。架菜さん、最近こっちの世界に馴れてきたんじゃないですか?」
そう言われれば…。
「今日は朝起きた時、泣いてなかった。」
今朝は、ショウタくんの事で頭がいっぱいであまり眠れなかったって事もあるけど。
「本当に?良かったね。」
「…。そぉかな?」
良かったのかな?
良かったって認めてしまうことは、翔太との事を忘れてきたと言うことを認めてしまうことのようで複雑な気持ちだった。
なので、曖昧に私は言葉を濁した。
今翔太は何をしてるんだろう?




