このままで…。
「気分どうすか?大丈夫すか?」
どのぐらいの時間が流れたのだろうか?
ショウタくんが不安気な目で私の顔をのぞきこむ。
ああ、世界で一番安心できる大好きな顔だ。
「う…ん、大丈夫かな?」
自分の中で何が起こったのか分からなかった。
ただ恐くて…、今までに感じたことのないほどの恐怖が胸をいっぱいにした。
やっぱりこの場所で何かあったのかもしれない。
「架菜さん」
まだ微かに震えている両手を、ショウタくんが握ってくれた。
温かいショウタくんの手。
「無理に思い出すことないですよ。今は落ち着いて」
元いた世界のことを思い出さなくちゃいけない、でも、思い出したくない。
そんな気持ち初めて感じた。
思い出したくないことなんてある訳ないのに。
「取り合えず、店出ましょうか?歩けます?」
「う…ん、大丈夫」
だいぶ落ち着いたようで、私はゆっくりと席を立った。
*********
もう6時を回っていたのに、外はまだ明るかった。
「夏休みまであともう少し」
ショウタくんの言葉通り、あと1ヶ月ぐらいで夏休みになる。
良夢さんは、夏休み何か予定あったのかな?
「ショウタくんは夏休みどこか行くの?」
「うーん、友達と花火大会行ったり、夏フェス行ったりするぐらいかな?」
夏休み前に元の世界に戻ることができるかな?
「もし…。夏休みも架菜さんのままだったら一緒に夏祭り行きませんか?」
え?
不意打ちの誘いでびっくりした。
「私なんかとでいいの?」
何か慌てて変な返答をしてしまった。
「架菜さんと行きたいんです」
真っ直ぐな瞳で私を見るショウタくんの中に翔太がいる気がした。
その時。
あ、まただ。
強い視線を感じた。
いつもより強い視線。
あまりにも強い視線で、その正体が分かるんじゃないかと私は視線を探した。
頭が割れるように痛い。
一瞬、その視線の先が見えた気がした。
え?ウソ。
私?
おぼろ気なまるで霊体のような私の姿。
だけど、それはあまりにも一瞬のことですぐに消えてしまった。
「架菜さん?何か見えたんすか?」
大丈夫、声に出せないぐらい頭が痛かった。
*****
「架菜さん家って案外オレの家から離れてないんですね。このぐらいの距離ならチャリですぐだから、明日から朝迎えに来てもいいですか?」
結局、その日の帰り家まで送ってくれたショウタくんは、私にそう言った。
朝、迎えに?
翔太と同じように毎朝私を迎えに来てくれるの?
それは私にとって夢のような言葉だった。
「お願いします」
私はショウタくんに向かって思いきり頭を下げた。




