視線
「良夢ー。今日も井川くんと一緒に登校ー?」
教室に入った瞬間、待ってましたとばかりにユカが私の前にやってきた。
「本当いつの間にそんなに仲良くなったのー?めちゃ羨ましいんだけど」
けどー、親友の幸せは心の底から応援するからね、と続けるユカを見て、
『あ、この言葉はアミも言いそうだな』
と思ってしまう。
アミとは中学校の時からの親友だった。
なので、私が演劇部の先輩の事を好きになり、失恋した時も励ましてくれた、大切な親友。
いつも私の応援をしてくれていて、結局自分の事は後回しで…。
つくづく、私は恵まれているなって思う。
ここの世界の私もアミのような親友が側にいてくれているのだから、きっと恵まれていると思う。
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お昼休み。
ここの世界に来てから、二度目の学園の屋上。
フェンス越しから下の景色を見てる。
気持ちのいい風。
もうすぐ本当に夏が来るんだなー。
空がすごく高い。
この世界に目覚める前の記憶は、確かに三月のはずだったのに。
二年生になってからの記憶…がはっきりしない。
翔太へ誕生日プレゼントは渡したんだっけ?
日帰り旅行の話はどうなったんだっけ?
屋上の扉が開く鈍い音が聞こえた。
期待してなかった訳じゃない。
でも、まさか本当に現れるなんて思って無かった。
ショウタくんが私に気付き、軽く右手を上げてくれた。
ショウタくんと普通に話せるようになった今でも、たったそれだけの事で泣きそうになるぐらい嬉しくなる。
ショウタくんが私に気付いてくれた。
たったそれだけの事がこんなに嬉しい。
たったそれだけの瞬間をみんな普通に過ごしてしまってるけど、僅か数秒の出来事が本当はとても大切だったりすると思う。
時間はみんな平等に与えられていて、進むことも戻すことも、まして止める事なんてできない大切な物で、その大切な時間の中にほんの一瞬自分を置いてくれたことがたまらなく嬉しい。
「架菜さん、もうお昼食べました?」
「うん」
「そっかー。一緒に食べようと思ったのにな」
そして、ビニールの袋に入ったサンドウィッチを取り出した。
「それで足りるの?」
と、思わず聞いてしまうぐらい少量だった。
「オレ、いつもあんまし食べないんです。下手すれば二日間食べなくても平気かもしんないです」
翔太もそんなに食べる方じゃなかったけど、そこまでじゃなかったから、軽く衝撃。
成長期なのに…と親のように思ってしまった。
ショウタくんは私のすぐ隣でフェンスに寄りかかり、スポーツ飲料を飲み始めた。
あ、まただ。
すぐ近くで視線を感じた。
どこかで見られてる?
すぐ目の前で視線を感じると言う奇妙な現象だった。
実体のない視線。
「どうしました、架菜さん?」
小首を傾けるショウタくんと目が合い、我に返る。
その視線が何なのか分からないけど、この世界に来てからずっと誰かに見られていることは間違いじゃない。




