記憶
「で、オレそっくりのそっちの世界の翔太さんは先輩のことずっと好きだったんですね」
一通りポテトを食べ終えて落ちついた私は、前の世界でのこと、翔太のことを話した。
「その翔太さんはずっと前から先輩の事を好きだったんですよね?、だったらもっと早くコクっちゃえば良かったのに」
「え?」
「オレだったら、もっと早くコクってたと思います。好きな女が他の誰かに取られるなんて絶対にイヤだし、コクってダメたらダメで諦めがつくし」
そこは翔太と違うんだと思ってしまった。
翔太はどちらかと言うと見守ってくれるタイプだから。
「男って思ってる以上に案外嫉妬深いとこあるから、内心穏やかじゃ無かったと思うよ」
そうなのかな?
そんなこと感じたことなかった。
「先輩が今の先輩…。あー、もう分かりづらい」
そこで、ちょっと苛ついたように、
「もう架菜さんって呼んでいいすか?」
胸が何かに掴まれたように苦しくなる。
自分の名前を呼んでもらえるだけでこんなに嬉しいんだ。
一瞬呼吸のしかたを忘れたかのように苦しくて。
私は声に出せないまま頷いた。
「架菜さんは、先輩の中に入って先輩の意識を感じることはありますか?」
あ…。
一度だけあった。
イチゴミルク飴の時の不思議な感情。
あれは多分、良夢さんの感謝の気がする。
「一度だけ自分以外の感情を感じた事ある」
「と言うことは、先輩の意識はまだその中にあるのかもしれませんね。で、架菜さんの肉体は眠ったままの状態なのかも。オレが翔太さんの体に入ってた時翔太さんの意識は全く感じなかったから」
いつ頃翔太の中にショウタくんがいたのだろう
きっと、ショウタくんも今の私のように不安だらけだったはずなのに、私は全く気付いてあげられなかった。
翔太は私のほんの少しの変化にも、気付いてくれるのに、私は翔太の何を見ていたのだろう?
「ここに来る直前何があったか覚えてますか?」
ここに来る直前?
それは思い出せないけど、ここの来た時の違和感は覚えてる。
ここの季節が夏だったってこと。
私のもといた世界では春だったはずなのに。
4月生まれの翔太の誕生日を祝おうって計画してたのに。
あれ?
また涙が溢れてくる。
今年の翔太の誕生日は土曜にあたるから日帰り旅行行こうって計画してたのに…。
どうしてこんなに悲しくなるの?
どうしてこんなに胸が痛いの?
「架菜さん?」
辛辣な表情で黙ってしまった私にショウタくんが問い掛ける。
「…。ごめんなさい」
「無理しなくていいですよ」
ショウタくんが不安そうな顔でのぞきこむ。
翔太は今どこで何してるの?
私の側にいてくれてるのかな?




