表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/27

パート10 翔太とショウタ

「良夢ー。カラオケ行こうー」

放課後、この世界での親友のユカが私を誘ってくるのは毎日恒例の儀式のようになってきた。

いくらフリータイム1000円のとこだって、毎日カラオケは金銭的にも厳しいのではないかと…。

そう声に出して言ったとしてもこの子には軽く流されてしまいそうだから絶対に言わないけど。

「ごめん、今日ちょっと…」

「ちょっと何よー?」

言葉を濁らせた私の態度が気に入らなかったのか、いつものように唇を尖らせた。

ああ、本当に可愛い。

ユカに会いたくなる。

「今日ね…」

「せーんぱい」

私の声を遮り、教室に入ってきたショウタくんが私のすぐ後ろにいた。

「先輩帰りましょう」

無邪気な笑顔で私の前に彼に立つショウタくん。

翔太とそっくりな大好きなこの笑顔。

「良夢ー?ふぅん、そう言うことね、まっ、相手が彼なら仕方ないか」

え?いつそんな関係になったの?とか詳しいことは聞かないとこもアミと同じで気持ち的にとても楽な存在。

「今日は彼に譲るんだから、うまくやってよね、じゃあね」

ユカは、ショウタくんに軽く笑みを見せるとスカートをふわりと膨らませて教室を出て行った。

「じゃ、帰ろう」

ショウタくんが私に笑顔を見せてくれた瞬間。

一瞬時間が戻った。

その表現が正しいのかどうかは分からない。

ここにいる自分が誰なのかもはっきりしない今、たとえ時間を戻したとしてもその時間の先がどこなのかは分からない。

それでも、今一瞬だけ幸せな時間の中にいた気がした。



      ************


学校からの帰り道。

二人で同じ方向に帰れるのはいつ振りなんだろう?

嬉しくて嬉しくて、今の自分が架菜に戻った感じになる。

「話しするのここでいい?」

ショウタくんが足を止めた先は…。

え?ここってまさか…。

「どうしてここにも、この店があるの…?」

いや、冷静に考えれば家だって学校だってあるのだから、この店だってあっても全くおかしいことはない。

だけど…。

そこは、私と翔太がバイトしていた株式の店だった。

「他の場所でもいいけど?」

きっと、今ショウタくんがここを選んだのも何かしらの運命だと思う。

そう思うと、この場所以外考えられなかった。

「ここがいい」



店内は私のよく知っている店内だった。

例の鏡もちゃんとそこにある。

私たちは、ドリンクとポテトをオーダーしてから、外の景色がよく見える窓際に座った。

たくさんの人が行き交う通りを見ていると、自分が元いた世界とどこが違うとこを探す方が難しいぐらい全てが同じに見える。

そんな中で、ショウタくんがおもむろに口を開いた。

「こんなこと急に言うと変だと思われるかもしれないけど、屋上で先輩と話した時何か違和感を感じたんだよね」

「…」

「いつだったか忘れたけど、オレ、ある時期の一日だけ不思議な体験をしたことがあったんだ」

そこで、一旦注文していたアイスコーヒーを一口飲んで、自分の髪の毛をくしゃと触った。

「見た目は全く自分とそっくりなのに、どこか違う自分がいた。その世界でオレは先輩そっくりな人と付き合ってた」


それって…。

いや、まさかそんな訳…。

今の私と同じ経験をしたってこと?

「あの時のことずっと夢たと思ってた。あの日以外そんな経験ないし。でも…」

そこで、まっすぐと私を見るショウタくんに不覚ながらドキドキしてしまう。

「今日先輩に会った時の違和感。今まで毎朝会ってた先輩とどこか違う。もしかしたら、あれは夢じゃ無かったのかと…。今ここにいるのはあの時の彼女ではないかと…」

ふぅーと深く息を吸い込み、まだ少し疑いをこめた瞳で私を映し、まさか、この世界で聞くこと思いもしなかった名前を彼は言った。

「架菜?」

時間が止まる錯覚を覚えた。

そうだ、私は架菜だ。

この世界の誰もが私の事を知らないのに彼が…、私がずっと信じていた人とそっくりな彼が、私の名前を呼んでくれた。

ああ、彼の姿が霞んでくる。

ここに来てから泣いてばかりの気がする。

一生分ぐらいの涙がこの数日で溢れてくる。

「やっぱり…。あれは夢じゃ無かったんだ」

ショウタくんが私の世界にいた。

ほんの一日だけ私の世界に…。

これはどう言うことなんだろう?

この世界は私の元いた世界とどんな関係があるんだろう?

でも、今はそんなことどうでもいい。

私を分かってくれる、私に気付いてくれる人がこの世の中にいてくれた。

それがショウタだと言うことが嬉しくて。

「パラレルワールドって聞いたことあります?」

パラレルワールド…。

「一人の人間が右の道に行くか左の道に行くか、たったそれだけの分岐で存在する並行世界」

「…、聞いたことある。聞いたことあるけど、それって映画だけの話かと…」

「全くの空想とは限らないんじゃないかな」

ショウタくんがちょっと考えてから言葉を続けた。

「オレが一日だけ先輩の世界に行ったことと、先輩が今この世界にいること。これには大切な意味があるんじゃないかな?」

大切な意味?

「先輩自身が自らパラレルトラベラーになったのか、それとも誰かの想いでここに来たのか?今は分からないけど、それでも、先輩がここにいることに大切な意味があるとしたら?」

そうだとしたら?

私は…。

「それを見つけ出さないと」

そうしないと帰れない。

「うん。多分そうだと思う」

ショウタくんの優しい笑顔に見守られて、元気が出てきた。

翔太と全く同じ人を元気にさせる笑顔。

ぐぅーーーー。

その瞬間安心したのか、お腹の虫が動き出す。

はっとショウタくんを見ると、彼はまるで気にしていないようで、

「全部食べていいですよ」

この世界に彼がいてくれて良かった。

彼がいなかったら、私はきっとどうにかなっていた。

もしかして、敢えて彼のいる世界に来たのかな?

まだ分からない事が多すぎだけど、でも、今はここに来て初めて安心することができた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ