表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

クリスマスなので愛をください

作者: 木場アサト

「クリぼっちです。愛をください」


 意味が分からない、と俺は顔をしかめた。

 現在時刻は二十二時。雪がちらつく寒い夜。今日の日付は十二月二十五日なので、ホワイトクリスマスというやつだ。まあ、ここは雪国だからそんなもの珍しくもなんともないのだが。

 そんな夜、薄っぺらいコートを着て足早に駅に向かっていた俺は一人の少女に捕まった。白いコート、白いブーツ、白いイヤーマフ。全体的に白い。雪が積もっているせいで周囲の風景と同化してしまっており、赤いマフラーが妙に映えている。

 それで、今この少女は何と言った?


「クリぼっちって何だよ」

「クリスマスぼっち。聖なる夜を一人ぼっちで過ごす寂しい人間のことです」

「で、そのクリぼっちさんが何で俺に声をかけたんだ」


 早く帰りたいということを微塵も隠さずに吐き捨てる。何が楽しくてこんな寒空の下で立ちつくさなきゃならないのだ。


「あなたがそこを通ったから、私の目についたからです。一目惚れとも言います」

「はぁ?」


 ふざけんな。俺は早く暖かい家に帰りたいんだ。そんな冗談に付き合うつもりはない。今日も一生懸命働いて稼いできた企業戦士(社畜)に対する労りはないのか。

 しかも、さっきから気になっていたのだが。


「お前、いくつだ?」

「高校三年生、ぴっちぴちの十八歳です」

「こんなところにいないで帰って勉強しろ」


 若いと思ったらやっぱり学生だった。こんな時間に出歩くなんて、最近の若者は危機感が足りないんじゃないのか?


「勉強をするためのやる気をください」

「愛じゃねえのかよ」

「愛イコールやる気です」


 ……何を言ってるんだ、こいつ。まだ若いつもりでいたが、俺も年か? 何を言っているのかさっぱりだ。


「何だよお前、家出か?」

「違います。愛を乞いに来たのです」

「駅前に?」

「近所なので」

「……俺、これから来る電車に乗るんだけど行っていいか?」

「駄目です。行くのなら愛をください」


 駄目だこいつ。話にならない。

 こめかみを押さえたくなるのを堪えながら俺は言う。


「悪いが、他を当たってくれ。というか帰れ、危ないから」

「心配してくれるんですか?」

「あ? ああ、まあ」

「愛ですか?」

「あ゛?」


 何がどうしてそうなったんだ。意味が分からない。


「私を心配するのは、そこに何らかの愛があるからですか?」

「あー、もうそれでいいよ。そうそう、愛だよ愛。愛ゆえにだよ。これでいいか?」


 面倒くさいしそろそろ時間がやばいので適当にあしらう。しかし少女はそれに不満そうな顔をする。


「心がこもってないのでもう一度お願いします」


 ぶん殴りたい。こいつ、超ウゼェ。

 子供の我が儘なんだから落ち着け、と自分に言い聞かせてもう一度口を開く。


「心配だから、今日はもう帰れ。愛やらやる気やらが欲しいならまた明日にしろ」

「……まあ、いいです」


 何故か上から目線でそう言った少女は、どこか嬉しそうにしながら踵を返した。


「一体なんだったんだ……っと、時間時間」


 その背を視界の端に捉えながら、俺は慌てて駅の改札を通り抜けた。


クリスマスって二十五日なのに、日本人は二十四日に盛り上がるのは何故だろうか。商業的な何かが絡んでいるのだとしても、二十五日でもなんら問題はないように思うのだが。

12(月)25(日)文字。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ