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 勇者的魔王爆誕!

(ん・・・ここは何処だ?)


 目を開けると、突き抜けるような青い空が広がっていた。雲一つ無い快晴。太陽の光がやたら眩しい。


(まずい・・・太陽は苦手なのだ・・・)


 上体を起こそうとする。・・・体が動かない。


(体が動かん・・・新式の呪縛術か?)


 自分の体にかけられた魔力を探知する。特に何も見つからない。


(では、何故だ?何故、体が動かない?)


 必死に原因を探る。・・・何であろうな?考えていると声が聞こえた。


「あなた!あんな所に赤ん坊が!!」

「ほ、本当だ!」


 視界の端の方から若い二人の男女が姿を現した。茶髪の冒険者風の男と水色の髪をした僧侶風の女だ。ちっ!人間か・・・。面倒くさい事になった。


「どうしたのかしら?こんな所で・・・。捨て子かしら?」

「このままでは可哀想だな・・・。」


 こやつら、先程から何を訳の分からぬ事を・・・。貴様らの前にいるのを誰だと思っておる。まあ良い・・・丁度、体が動かなかったところだ。貴様らに手を貸して貰おう!クックック、人を操るなど我にとっては造作もないこと。さあ、我に従え!!


「あ・・・だっだ・・。」


 何だと!?口も動かないだと!?ぐっ・・・これでは呪文が唱えられん!我の知らない封魔術とは・・・人間も中々やるではないか。


「あなた!この子、喋ったわ!」

「連れて帰ろう。捨てておけないよ。」


 またか・・・。我を連れ帰るだと?こやつら、我を前にして漫才とは中々肝の据わった連中だ。もっと、こう・・・悲鳴を上げたりしても構わんのだぞ?あるいは憎悪の表情を浮かべるとか・・・何でこやつら笑っておるのだ?


「ここで会ったのも何かの縁だわ。」


 女は我の体を軽々と持ち上げる。こやつ・・・見かけに依らず怪力だな。我を持ち上げるとは・・・無礼千万!我が灼熱の眼光で焼き殺してくれるわ!じ~っ・・・。


「あっ!今、この子と目が合ったわ!」

「賢そうな赤ん坊だな。将来きっと立派な人に成れるぞ!」


 おい!何故だ!?何故、死なないのだ!?くっ・・・先程から何かおかしいぞ!相変わらず体は動かんし・・・。・・・待てよ。こやつら・・・今、何と言った?賢そうな『赤ん坊』とか言わなかったか?ま、まさか・・・


「いつまでも『この子』じゃ可哀想だわ。名前を付けてあげましょう?」

「そうだな・・・。将来勇者になることを願って、勇気ある者・・・『ブレイブ』なんてどうだろう?」

「まあ!いい名前だわ!」


 おい、待て!勝手に話を進めるな!我には、誰もが平伏す格好いい正式名称があるのだぞ!?それに、勇者だと!?ふざけるな!断固拒否する!抗議だ、抗議!!


「だー・・・だー!」

「まあ!この子も・・・ブレイブも喜んでくれたわ!」

「そうか、良かった。よろしくな、ブレイブ!」


 あ、駄目だ。こやつら聞いとらん。と言うか、我が喋れておらん。人間風情が、ニコニコしおってからに・・・。あっ!やめろ!上下に揺さぶるんじゃない!貴様ら、我を誰だと思っている!?我は・・・我は・・・魔王ベルベント=ハーネスだぞ!!


 ~ 今から少し前の魔王城 ~


「魔王様!人間共が異世界から勇者を召喚したようです!!」

「ふっ・・・慌てるでない、デーモン。既に手は打ってあるわ!」

「おお!!さすがは魔王様!して、どのような手を?」

「召喚された城の周辺を超強力なモンスターで固めておいた。本来なら魔王城周辺にしかおらん奴にな。初期値の勇者など、冒険が始まった瞬間にジ・エンドじゃ!『お前の出番ねーから!!』という奴じゃな。」

「さ、さすがは魔王様!極悪非道この上ないですね!」

「おう、おう!あまり誉めるでない。照れるではないか!」


 もっと誉めても構わんぞ?我は誉められて伸びるタイプじゃ!我は、そんじょそこらの魔王とは違う。異世界から来た勇者であろうが、チートスキルを使う勇者であろうが、人間など相手にならぬわ!


「まさに向かうところ敵無しですね、魔王様!」

「チッチッチ、甘いぞデーモン。そこで油断するから死亡フラグが立つのだ。我には、まだ強大な敵がいるではないか!」

「別世界の魔王・・・ですか?でも、ただの噂では?」

「人間共の言葉で、よく言うであろう?『火の無い所に煙は立たぬ』とな。噂であろうが準備は怠らぬ!それが絶対的な魔王というものじゃ!」

「そこまで考えていらっしゃるとは・・・。さすがは魔王様!」

「クックック・・・では準備に取りかかるとするか。」


 玉座を立ち、自室の祭壇に向かう。自分に絶対的な自信を持つ者こそ足を掬われる。我は違う。我は努力を怠らぬ。才能を持つ者が努力を怠らぬとは、恐ろしいものだのう。別世界の魔王とやらがどれだけの力を持っているかは知らぬが、我が秘術の前では何の意味も成さぬ。我が秘術は相手に呪いをかけ、あらゆる能力を激減させる。赤子に変えてしまうようなものじゃ。別世界の魔王を赤子にしてしまえば、後は煮るなり焼くなり思いのままじゃ!調教して下僕にするのも悪くない。クックック・・・夢が広がるのう!


 ~ 現在 ~


 そこまでしか覚えておらぬ・・・。記憶が曖昧じゃ。まさか、我が赤子になってしまうとはのう・・・。我が秘術が暴走したので無いならば・・・別世界の魔王の仕業かのう?ぐっ・・・呪いの力に頼るとは、魔王の風上にも置けん奴じゃな!しかし、今の姿では如何ともし難い。我一人では生きていけぬ程じゃ・・・。仕方がない。ここは、この人間共を利用させてもらうとするか。クックック・・・将来勇者になるじゃと?馬鹿め!我が将来なるのは大魔王じゃ!まあ、精々我を大事に育てるがよい!働き如何によっては、我が眷族に加えてやらんこともない。クックック・・・笑いが止まらんのう。


「キャッキャ、キャッキャ!」

「まあ!ブレイブが笑ってくれたわ!」

「きっと君の抱き方が気に入ったんだよ!」


 クックック・・・能天気な奴らだ。って、おい!激しく揺さぶるんじゃない!逆に気持ち悪くなってきたではないか!貴様・・・赤子をあやしたことが無いな!おい・・・止め・・・気持ち悪・・・うっ・・・


「きゃーっ!ブレイブが吐いちゃったわ!」

「おいおい、やりすぎだよ・・・。」


 ま、魔王ともあろうものが・・・ゲロを吐くなど・・・屈辱的じゃ。こやつら・・・覚えておけよ・・・。と言うか、大丈夫であろうか・・・こんなやつらに頼って・・・。

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