真・羅生門=偽りの姿=
俺がこの老婆を見て感じたことはただひとつである。こいつはあの時いた老婆ほかならぬ。俺がまだ中学のときにあの男の仮想空間で殺された老婆じゃないか。間違いない。
「おやお前達どこかであったね。クケケケ」俺と武田、本間、音椰を見るなり、まるでカラスの笑い声のような高き声を出して老婆は笑い出した。
しかしここで引っかかる部分があった。それは"お前達"である。そう音椰、武田、本間はこの老婆にあってはいないのだ。
「なんでお前がこの3人を知っている」と俺が問うと、老婆はあざ笑うかのように言った。
「そうか、知らないのじゃな。私はあの男の空間で生み出されたものではないのだよ」
―――――あの男の空間で生み出されたものでは無い?つまりあの空間にいながら、あの空間で作成されたプログラムではなかったのか?
「あの男も私の正体を知らぬだろう。正確に言えばこいつに乗り移っている私の正体を」
「お前は一体…!」本間が横で向こうの変わりに答えてくれた。
「電子空間のウイルスの一種だろ。分かってるさ」
まさかそんな秘密が隠されていたとはな。老婆が話を始めた。
「そうあの男は例の電子空間を開いた瞬間に、"我々"が入ったことに気づかなかった。そして暇つぶしに恐らくわれが今入っている老婆と下にいた下人を殺した。そこでお前と男は初めて対面したわけだ。この刀はその下人から取ったものだ」成程…多少の理解が出来た。
「我々…?」音椰が俺も気になっていた単語を老婆に向けて言い放った。
老婆は薄気味悪い笑いを浮かべて遂に吹き出した。
「そうだ!"我々"だ。そしてもう近くにそれらはいる」何!!四方八方を見渡すが俺達以外誰もいない。
「まさか…」本間は周りの奴らを見渡した。そう田中、手塚、宮元、旭日のほうを見渡した。
「そうだ旭日はどうやらこっちの空間に来たときに男のプログラムで情報が書き換えられたらしいな」
「そのようですね」田中がそう言った。
「旭日は怪訝な顔をした。いかにも何を言ってるんだ濃い面と言う顔だ。
「おまえら一体何を・・・」全て言い終わらないうちに治虫が近づき人差し指を額にあて高速で何かつぶやいた。少し間が空いて旭日は頭をガクリと下げた。
「一体何をしたんだ!」興奮したらしく俺は叫んでいた。
「もう終わったよ」そうすると旭日は頭を上げて
「危なく仲間を殺してしまうところだったよ大丈夫かいウィストン」旭日はそういうと田中たちのほうへ歩みだした。どうやらこいつも仲間だったらしく、手塚がやったのはこの空間でのプログラムの干渉か何かをのけるものだったのだろう。そして老婆に寄生しているウイルスはウィストンというらしい。
「ありがとう。ジム・ジャスターン」難しい名前だがそれが治虫に寄生している本名なのだろう。
そう治虫たちは確かにあの男によってここに来させられたがこの種のウイルスによりまんまと寄生されたと言うわけだ。
「いまごろあの男はあせっているだろうな。何しろ自分の手中に収めていたはずの世界が勝手に暴動を引き起こしたのだから。
「ハッハッハッハッ」老婆の笑い声はぼろぼろに破壊された夕暮れの羅生門のごとく不気味な声だった。
次回:真・羅生門=Who is a traveler"悪魔の正体"=