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インペリアル・ガード  作者: 島隼
第一章 ダルリア・セシル同盟
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第一章 【5】

 数日後、同盟締結前日の昼前、王宮の正門を抜けた所の石橋の上でレッドと馬に跨ったシード、他に近衛騎士の五名程が話をしていた。

「それでは行ってまいります」

「ああ。最近瘴獣が頻繁に出ているとのことだ。王国騎士団の方で相当片づけたようだが、道中注意を怠らないようにしてくれ」

「わかりました」

 そう言うと、シードは馬の腹を蹴り王都の道を進んで行った。

 セシル王国の国王の一行が、明日王宮で行われる同盟締結のために、王都ルキアの西にあるリーフ湖畔の街、リーフポートまで来ることになっていた。

 一行はリーフポートで宿泊し、明日の午後に王宮に来ることにないる。

 セシル王国の国境からリーフポートまでは西方師団が先導し、リーフポートから王宮までは近衛騎士団が先導する手はずになっているため、シード達は今日の内にリーフポートに向かい一行と共に明日王宮に来ることになっていた。

 リーフポートは元老の一人であるディール卿シャロン・ディールが納めるリーフ湖沿岸の美しい街である。そして、シャロンはシードの母親でもある。

 シードはディール家の子息であるが次兄であり、跡取りではないため近衛騎士に志願していた。レッドもそうであるが、近衛騎士団はその性質上、王国騎士団に比べて貴族出身者の割合は比較的多い。もっとも、危険な職務でもあるため志願しているのは次兄以下の跡取り以外の者であることがほとんどである。レッドのように子息どころか当主そのものが近衛騎士となっている者は他にはいない。

(さて、俺も明日に向けて準備を始めるか)

 レッドはシード達をしばらく見送ると、王宮に向かって歩を進めた。

 同盟締結の議が行われることになっている謁見の間では、侍従や文官達が準備に追われていた。近衛騎士達もレッドが外に出る前に指示した通り警備態勢の見直しと手順の確認を行っていた。

「団長!!」

 謁見の間の様子を伺っていたレッドに近衛騎士の一人が声を掛けてきた。

「ん?どうした、バルクード」

 レッドは呼ばれた方を振り向きながら近づいてきた近衛騎士のバルクードに声を掛けた。バルクードは謁見の間で他の近衛騎士達を指揮していた。

「はい、明日の警備態勢ですが、セシル王の警護に人が割当たってないのですが誰か付けますか?」

 バルクードは手に持った警備計画書を見ながらレッドに問いかけた。

「いや、セシル側からも近衛兵が来ることになっている。セシル王の警護はその者達が行うことになっているので、こちら側で人は付けなくていい。それよりも王宮の警備を入念にチェックしておいてくれ」

「ああ、向こうからも来るのですね。承知しました。では」

 バルクードは敬礼をするとその場を離れた。

(ふむ。ここはバルクードにまかせておけば大丈夫そうだな。俺もボスト殿と明日の手順を確認しておくか)

 レッドは待機部屋に向かって歩き始めた。


 シード達は王都からリーフポートに行く途中にある大きな森の中に続く街道を馬で進んでいた。リーフポートはこの森を抜けた先にある。特に名のある森ではあるが、広大な森であり、面積は一般的な街と同じくらいある。周りの木々は街道の上にまで枝葉を伸ばし、上を見上げると木漏れ日が眩し

い。森林浴にはちょうど良い時期ではあるが、今はリーフポートに急ぐ必要があった。

「久しいな」

 思わずシードは頭で考えていたことが口から出た。

「シード様、どうかされました?」

 シードの声を聞いた近衛騎士がシードに訪ねてきた。

「ああ、すまない。気にしないでくれ」

 シードは慌てて手を振った。

 母親のシャロンとは三か月の一度の元老会議の際に王宮に来るためたびたび会ってはいたが、故郷のリーフポートに戻るのは数年振りだった。


・・・・カサッ・・・・


 しばらく森の中を進んでいると、脇の木陰が一瞬動く。その音に気づいたはシードは馬を止めた。

「シード様?」

「何かいるようだな」

 シードは馬を降りると他の近衛騎士達もそれに倣った。

「瘴獣のようですね。増えているという話しは本当でしたか」

 瘴気の気配に気づいた近衛騎士が回りを見まわしながら言った。

 瘴獣とは動物の死骸に瘴気が取りつき異形の生物と化した、いわゆる怪物である。取りつかれた動物の死骸は巨大化したり皮膚が硬質化等の変化をもたらし、大抵は好戦的で凶暴化している。それほど頻繁に発生するわけではないが、昨冬は寒さが厳しく、多くの生き物が死んだのか最近は数が増えていた。

「探して退治するぞ」

 瘴獣退治は本来王国騎士団の役目であり、この辺りでは西方師団が瘴獣退治を行っているが、見かけておいて素通りはできない。まして明日は他国の王を連れてこの道を通ることになっていた。

「我らが先に行きます」

 シードが進んだのを見ると二名の近衛騎士がシードの前に出て進んで行った。他の近衛騎士は荷の番の為にその場に残った。

 そして、それは程なくそれは見つかった。

「バジリスク・・・」

 近衛騎士の一人が呟いた。その近衛騎士の前に二匹の鋭い牙を持ち、黒い鱗に覆われ赤い眼をした瘴獣がこちらを見ていた。

 バジリスクとは元はトカゲの瘴獣である。四つん這いではあるが、立ち上がれば成人の胸くらいまでの大きさはありそうだった。

「我らが」

 そう言うと近衛騎士二人がバジリスクと対峙した。シードは二人の後ろでその様子を見ている。

 バジリスク達はすぐさま前にいる近衛騎士に飛びかかり牙による攻撃をしかけたが、精強を誇る近衛騎士の敵ではない。

 近衛騎士の一人は経験豊富な騎士であり、バジリスクの牙や爪の攻撃をなんなく捌き倒すのは時間の問題に思われた。もう一人の近衛騎士は見習いではないがまだ経験の浅い騎士であり、バジリスク相手に押されることはないが下からの攻撃は防ぎにくく若干手こずっているように見えた。

 若い騎士が上から振り下ろした剣は固い鱗に阻まれ弾かれてしまった。一度離れたバジリスクは一瞬間を置くと見た目とは違い素早い動きで若い騎士に接近した。若い騎士が身構えるとバジリスクは飛びかからずにその横を通り過ぎ、後ろにいたシードへと飛びかかった。

「あっ、シード様!!」

 若い騎士が慌ててシードに声を掛ける。バジリスクは口を大きく開きシードの腕のあたり噛みつこうと大きく飛びあがっていた。

 シードはそれを避けようともせず、剣を抜くと一閃、バジリスクの口を横に大きく薙いだ。バジリスクは口を裂かれるように胴体の中央まで切り裂かれるとそのまま地面に落ち絶命した。シードは近衛参謀長としてレッド、ボストと共に近衛三騎士に名を連ねる者である。バジリスクなどものの数ではなかった。

 地面に落ちたバジリスクは肉体が消滅し、後には黒い輝石が残された。

 輝石とは動物の遺骸に取りついた瘴気の結晶だと言われているが、未だ確かなことはわかっていない。魔力を吸収する性質があり、魔力を吸収した輝石は魔石と呼ばれ、さまざまな用途に使用される。

「シード様!!お怪我はありませんか!!」

 シードは輝石を拾い上げ、近づいて来た若い騎士に渡した。

「我々の責務は攻めることではなく、守ることだ。敵を後ろに逸らすようなことはするな」

「も、申し訳ありません」

「シード様、こちらも片付きました」

 同時にもう一匹のバジリスクを相手にしていた近衛騎士が剣を収めながらシードに歩み寄った。

「よし、戻るぞ」

 そう言うとシード達は他の近衛騎士達の待つ街道に戻り馬を進めた。

 日は既に傾き始めていた。

「瘴獣のせいで少し時間が掛かってしまったな。セシル一行より後に到着するわけにはいかない。少し飛ばそう。」

 そう言うとシードは馬を腹を蹴り速度を上げ、他の近衛騎士達も後に続いた。

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