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インペリアル・ガード  作者: 島隼
第三章 王国の抵抗
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第三章 【3】

「見張りからの報告によると、もう時期帝国軍が戦陣から確認できる距離に到達するとのことです」

 戦陣の設営が終わり、師団長のテント内でバイルとシハタ、そして第一師団に配属された三人の大隊長が策を練っていた。そこに見張りからの報告を受けた騎士が状況の報告にやって来ると、それを受けたシハタがバイルに伝達した。

「来たか。よし、全員手筈通りに頼むぞ。帝国軍の目標はトリトア渓谷を突破し、我々との正面衝突による総力戦を狙って来るだろう。そうなれば数に劣る我々には不利になる。我々の目標は帝国軍のトリトア渓谷突破阻止だ。帝国軍の殲滅ではない。帝国軍が撤退を開始した場合は深追いするな」

『はっ!!』

 バイルの指示にその場の全員が応じた。

 その後、全員がテントを出ると大隊長達は自らの大隊を指揮するためにバイルの元を離れ、バイルはシハタと共に第一師団が陣を構える戦陣の正面、トリトア渓谷の出口へと向かった。

 そして第一師団の戦闘陣形の後ろに到着するとバイルは号令で全員の注目を集め、それを確認すると声を張り上げた。

「全員聞け!!もう時期、帝国軍がこの場に到達する。この戦い、我々が第一陣だ!!我々の戦いが今後の戦いを左右する!!全員それを肝に命じ、死力を尽くせ!!」

『おおっ!!』

 バイルが第一師団全員を鼓舞すると、それを聞いた全員が一斉に声を上げて応じた。バイルはその士気の高さに満足するように頷くと全員に体勢を戻すように伝え、第一師団の指揮を取る為にその場で帝国軍の到着を待った。

 シハタは本陣への報告と第二師団との連携を行うためにその場を離れ、通信球が設置してあるテント内へと足を運んで行った。戦闘の状況は監視役の騎士が随時シハタへ報告することになっている。


 そして、全ての準備が整ったバイル達第一師団が見据える正面に、ついに帝国軍が姿を表す。

 帝国軍はバイル達の想定通りトリトア渓谷に全軍を横展開することはできず、縦に展開された陣形を取っている。第一師団は、トリトア渓谷出口付近の開けた場所に陣を張っているため三大隊が横に弧を描く形で展開されており、このまま帝国軍と衝突すれば緩やかに囲む陣形となっている。そのため戦闘に参加できる人数はわずかではあるが、第一師団が上回るように見えた。

 それを確認するとバイルは第一師団に指示を出した。

「よし、こちらからは仕掛けるな!!向こうの出方を待て!!」

 その言葉が良い終わると同時に帝国軍側から馬に乗った兵士が一人こちらに駆けて来るのが見えた。武装はしておらず、第一師団への伝令と思われるその兵士は、声の届く位置まで近づくと馬を止め、第一師団に向かって声を張り上げた。

「ダルリア王国軍に我が軍の司令官ザイル・プラトスからの伝言を告げる。『降伏せよ。この戦い、結果は火を見るより明らかである。我々の目的はヒリーフの奪還であり、ダルリア王国との戦争ではない。ヒリーフの村を明け渡せばこの戦争は終結する』以上。返答せよ!!」

 伝令の兵士の言葉にバイルが応えた。

「拒否する!!そのような戯言に惑わされる我等ではない!!帝国の目的は読めている!!我々が帝国軍を通すことはない!!」

 伝令の兵士はバイルの言葉を聞くと、何も言わずそのまま帝国軍側へと去って行った。

 帝国側としてはバイル達第一師団が引かないことは想定済みだったのだろう。それでも伝令を走らせたのは、第一師団に揺さぶりをかけ士気を乱す狙いがあるものと思われた。

「なかなか、頭を使う司令官のようだな」

 バイルが誰にとも無く呟く。

 伝令の兵士が帝国軍側に到着すると、帝国軍の第一陣は王国騎士団に向かって進軍を開始し

た。

 帝国軍と第一師団との距離が半分程に詰まった瞬間、帝国側から銅鑼どらの音と思われる大きな音が二回鳴ると帝国軍は第一師団の右側、第三大隊側に方向を変え速度を上げ始めた。

「なるほど、正面からぶつかって囲まれる程愚かではないか」

 第一師団としては帝国軍が真っ直ぐ進行し、第一大隊とぶつかりその両側から第二大隊と第三大隊で取り囲むのが最善の策であったが、それは帝国軍に察知されていたのか軍は方向を替え、第三大隊側の一点突破を狙っているようだった。

「第三大隊迎撃用意!!第一大隊は帝国軍が第三大隊と衝突後に帝国軍を側面から攻撃!!第二大隊は第三大隊の後方に回り支援せよ!!」

 バイルはいくつか想定していた迎撃パターンの一つを各大隊に指示し、各大隊がその指示に従い行動を開始した。

 第三大隊が迎撃の態勢を取った瞬間、帝国軍側の魔法士からと思われる火球が大きな弧を描いて第三大隊側へ飛来する。それを第三大隊及び第一大隊の魔法騎士が同じく火の魔法で迎撃すると火球は空中で轟音を立てて爆発した。

 そして帝国軍と第三大隊が衝突し、剣の交わる音、矢が空を切る音、魔法による爆発音、怒声、自らを鼓舞する掛け声がトリトア渓谷に響き渡った。

 帝国軍は渓谷の断崖と第一師団により横展開も妨げられ、軍の動員数を十分に発揮できずにい

る。その為、現状では優勢とは言えないが劣勢ではなかった。

 バイルはその場を動かず、各大隊や見張りに配置された伝令係から届けられる情報に耳を傾けている。

「第三大隊、第一大隊交戦を開始しました!!負傷者は少数、第二大隊により随時後方に収容中!!」

「小隊単位で第二大隊と入れ替えを行い、体力の消耗に注意しろと伝えろ」

「帝国軍の後方部隊、未だ動きはありません!!」

「よし、継続して監視。些細な動きも見逃すな」

 次々と届く伝令にその都度指示を出しながら、自らも帝国軍の動向を見逃すまいとしてかその視線は帝国軍へと向けられていた。

「向こうも期を伺っているようだな」

 バイルは誰かに話し掛けたわけではないようだったが、近くにいた護衛の騎士がバイルの言葉に応じた。

「はっ。こちら突破する隙を見ているものと思われます」

「ああ、強行突破してこないのは意外だな。帝国も戦のやり方を変えたか」

 バイルも今回の戦いに備え、帝国の過去の侵略行為について分析を行っていたこともあり、今の帝国の戦い方に若干の違和感を感じたようだった。

 帝国軍の他国への侵攻時は、その圧倒的な動員数により強引とも思える強襲を行い敵軍本隊を殲滅、その後に残党狩りを行う手法を取っていた。

「次の一手はどう出てくるか」

 バイル達としてはこのまま向こうに休む間を与えず、徐々に帝国軍を削っていくことが最善だが、帝国軍の後方部隊が動きを見せていない以上、このままバイル達の狙い通りになるようには見えなかった。


 その状態のまま、数刻程経った後バイルが見つめる視線の先で銅鑼の音が一回鳴り響いた。

「動くか・・・」

 バイルがそう呟くと、伝令の騎士がバイルの元に報告に訪れた。

「帝国軍の後方部隊の一部が進軍を開始!!第一大隊を側面から攻撃する模様です!!」

「強引に横展開するつもりか・・・」

 第一大隊の側面への攻撃は渓谷の壁面もあり、それほど広範囲に行える訳ではないが、第一大隊は既に帝国軍の先発部隊と交戦中のため側面からの攻撃には備えていない。そのため、少数でも相手の陣形を崩したり、士気を削ぐなど十分に効力を発揮すると思われた。第一大隊が崩れれ

ば帝国軍に横展開を許してしまい、そうなれば第一師団にとっては不利となる。

「なかなか戦巧者いくさこうしゃじゃないか」

 バイルはそう呟くと、近くにいた伝令に指示を伝えた。

「第二大隊に通達!!大隊を二つに分け、一つを第一大隊側面に回し帝国軍を迎撃せよ!!」

 そして、同時に第二師団へも伝令を伝える。

「第二師団に前進するように伝えろ。いつでも交代できるように体勢を整えつつ、我等を包囲する陣形で待機せよ、と」

「はっ!」

 バイルからの指示を聞いた伝令の騎士は、急ぎ第二師団へと向かって馬を駆った。バイルの第二師団への指示は、万が一突破された場合に備えてのものである。

「いい状況ではないな・・・」

 バイルの呟きに、今度は周りの騎士達は反応しなかった。いや、反応し難かったのだろうかあえて何も言わないようにも見えた。

 バイルの言う通り、第二大隊が二つに分かれたため帝国軍と正面から交戦している第三大隊側は薄くなり、また第一大隊は側面を突かれ第二大隊の一部の支援があるとはいえ、士気に乱れが出ているのがバイルからも確認できた。


「第二師団はどうなっている?」

 しばらく状況を見ていたバイルは近くの騎士に第二師団の状況を聞いた。

「既に陣形を整え後方に待機しています」

「よし」

 少し予定よりは早いが崩される前に第二師団との入れ替えを考えているようだった。しかしバイルのその思惑は適わず、大きな唸り声ともいえる声があたりに響き渡る。

 それは正面から当たっている第三大隊側ではなく、先ほどの帝国軍からの攻撃により若干の乱れを見せていた第一大隊側からのものであり、その乱れを抜け目無く狙ってきた帝国軍が第一大隊を崩した際に発せられた声だった。

「まずいっ!!期を誤ったか、、、。第二師団前進!!第一師団は第二師団到着と同時に後退せよ!!」

 それを確認したバイルは伝令の騎士達に急ぎ指示を伝えると、自らも小隊率い状況を確認するために突破された箇所に向けて馬を進めた。


「師団長!!これ以上は危険です!!」

「わかっている!!」

 帝国軍側から放たれた矢がバイルのすぐ前方に突き刺さる。バイルが突破されている場所付近まで来ると、完全に帝国軍の進入を許したわけではないが既に陣形は崩れ乱戦状態になっているのが見えた。バイルは後ろを振り返り第二師団が第一師団のすぐ後方まで接近していることを確認すると、すぐさま両師団に指示を出した。

「よし。第二師団はそのまま前進、第一師団との交代を・・・」

 バイルの師団への指示が終わらない内に、帝国軍側からまたも銅鑼音が、しかし今度は三度鳴り響く。

「なんだ?」

 バイルは帝国軍を見ると、帝国軍は後退を開始していた。

「なにっ、後退だと......。何故?」

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