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インペリアル・ガード  作者: 島隼
第三章 王国の抵抗
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第三章 【2】

「そろそろ北方師団の陣に到着します」

「ああ」

 王国騎士団副団長ビルト・クーエストが率いる緊急展開師団は、帝国との国境から二日ほど手前の位置で陣を張っていたが、元老院より帝国からの宣戦布告の報を受け北方師団が陣を張るコルシア草原まで数刻の位置まで来ていた。王国騎士団の副団長は緊急展開師団の師団長を兼務している。

「なんとか帝国軍が国境に到着する前に合流できそうだな」

「ええ、ですが元老院から得た情報が気になります」

「帝国の国境警備軍の動きか。合流していると思うか?」

「おそらく。帝国の南方外征軍だけでは我々を突破することはできません。帝国軍が我々を破ることが目的であれば、合流で間違いないでしょう」

「そうだな。だが、合流しても突破させるやる気はないがな」

「はい」

「急ぐぞ!!」

 そう言うと、ビルトは乗っている馬の腹を蹴り速度を上げた。


 ************************


「バイル師団長、ビルト副団長が到着されました」

 ここは、ダルリア王国とべルドラス帝国との国境近く、北方師団の張っている本陣内にある師団長のテントである。北方師団は王宮からの指示により、帝国軍の侵攻に備えるためにこの場所に本陣を張り、師団長バイル・ガンエン自身が指揮を取っていた。

 テント内にはバイルの他に師団所属の作戦立案者である軍師官、そして報告に来た騎士がいた。

 バイルと報告に来た騎士は王国騎士団専用の青い鎧をに見つけているが、軍師官は近衛騎士団の参謀長とは違い騎士ではなく文官のため鎧は身につけておらず、帽子と軍師官専用の特殊な青い布で織られた服を身につけている。

「早いな。よし、ここに御連れしろ」

「はっ」

 報告に来た騎士はその場を離れるとビルトを迎えにテントを出た。

 バイルの正面にある四角い木製の卓の上には周辺の地図が広げられ、北方師団の敷いている陣を表す駒が並べられている。その地図の眺めながらバイルはビルトが来るのを待った。

 しばらくすると、騎士団で統一された青い鎧の胸の位置に副団長であることを示す紋章を付けたビルトが緊急展開師団の軍師官と共にテントの中に入って来た。

「バイル、ご苦労。さっそだが帝国軍の状況を説明してくれ」

「はい。帝国軍は国境から半日程の位置まで進軍後、現在はその場に陣を張り兵を休めているものと思われます。斥候せっこうに出している部隊がそろそろ戻ると思われますので、詳細はその時に」

「よし、斥候が到着するまでの間に周辺一帯の地形の説明と、こちらの配置状況を聞かせてくれ」

「わかりました。シハタ、説明してくれ」

 バイルは隣りにいた北方師団の軍師官であるシハタに周辺の状況を説明するように促した。シハタは卓の上に広げられた地図と駒を使ってビルト、そして緊急展開師団の軍師官であるトリストに説明を始めた。

 そして、周辺の状況説明が終わるのとほぼ同時に斥候が戻ったとの知らせがテントに届いた。バイルは報告に来た騎士に、ここに連れてくるよう伝えた。

「いい知らせを持ってきてくれているといいがな」

「こういう時の報告は得てして悪いものです。あまり期待せずにいましょう」

 ビルトは冗談交じりに言ったつもりだったが、もともと生真面目な性格であるバイルから真剣な表情で返されてしまい、苦笑した。

 その後、それほど時を待たずテントの幕が上がり斥候に出ていた二名の騎士がテント内に入って来た。相当馬を飛ばして来たのか、二名の騎士は未だに少し息遣いが乱れているのを見てとったビルトが最初に口を開いた。

「どうやら、急ぎの報告がありそうだな」

 ビルトの言葉に騎士の一人が急ぎ呼吸を整えると説明を始めた。

「はい。帝国軍は数刻程前に移動を再開。間もなくトリトア渓谷よりダルリア王国へ侵攻するものと思われます」

 トリトア渓谷とはべルドラス帝国とダルリア王国との間にある広大な渓谷であり、この辺一帯では帝国側からダルリア王国に来るための唯一の道となっている。ここ以外ではルファエル山脈を越えるか、ロビエス共和国内を進むしか道はない。ルファエル山脈は大軍を率いて越えることは難しく、またロビエス共和国内に帝国軍を通過させることはそれ以上に厳しい。そのため、トリトア渓谷を抜けてくるであろうことは王国騎士団も予想していた。

「帝国軍の規模は?」

 バイルの言葉に別の騎士が口を開いた。

「それが、、、予想通り国境警備軍が外征軍に合流し、その数六万程に達していると思われます」

「なっ!!六万だと!!」

 バイルは驚愕の声を上げた。国境警備軍の合流により規模の拡大は想定していたが、それ程までに膨れ上がっているとは考えていなかったようだった。対する王国騎士団は北方師団の二万と緊急展開師団の一万五千、総勢三万五千程であり帝国軍は倍近い人数ということになる。

 ビルトは立場上のこともあるのか平静さを保っており、表情は変わらなかった。

「バイル、お前の予想通りの報告だったな」

「そう、、ですね」

 ビルトから平静になれという暗黙の指示と受け取ったのか、バイルはいつもの表情に戻った。師団長や副団長が慌てればそれは騎士団に伝わり士気が下がる。しかも今回のような大規模な編成となれば、一度下がった士気を立て直すのは難しい。ビルトには経験上そのことがよくわかっているようだった。

「だが、悲観することばかりじゃない。予定通りトリトア渓谷を抜けてくることは、こちらにとって好都合だ」

 トリトア渓谷は広大な渓谷ではあるが、六万もの軍勢が一度に通過できる程の広さはない。そこを通過する以上は必ず軍勢が縦に伸び、トリトア渓谷を突破させなければ戦闘に加われる人数は半分以下することも可能と思われる地形だった。


「よし、本陣を移すぞ!!トリトア渓谷の手前に前線の戦陣とその後方に本陣の二段階に分けて陣を張る。バイル、お前は戦陣で指揮を取れ。トリスト、シハタは北方師団と緊急展開師団を合わせて再編成し、騎士団を三つに分けろ!その内の一つをバイルに預け、戦陣にて待機。残りの二つは戦陣後方でいつでも前線と交代できる準備を整えておけ!」

『はっ!!』

 ビルトからの指示を受けた三人はその場を離れ各々が自らの作業に移り、ビルトも最後にテントを出た。トリトア渓谷まではここから一刻も掛からない距離ではあるが、移動の準備、師団の再編成も行うために、出発までにはもう少し時間が掛かりそうだった。テントを出たビルトは師団の状況を確認して回っていると、さすがに規律と秩序に厳しい王国騎士団らしく、それほど時を待たずに三編成された師団は移動準備も終わり、ビルトの前に整列した。

「よし。今後、この三軍を第一師団、第二師団、第三師団と呼称する!!第一師団はバイル師団長と共にトリトア渓谷手前に戦陣を張り、帝国軍を迎え撃て。第二師団は戦陣後方にて待機。第三師団は我と共に本陣設営後、本陣の防衛にあたれ!!帝国軍と接触後は第二、第三師団との入れ替えを行いつつ、帝国軍の侵攻を防ぐ。いつでも交代できるように、常に戦闘態勢に入れる準備をしておけ!!」

『はっ!!!』

 ビルトは声を張り上げ騎士達に指示を与えると騎士達はそれに応えた。

「よし、進軍開始!!」


 ビルトの合図とともに王国騎士団はトリトア渓谷に向けて移動を開始した。先頭を行くビルトは近くを共に進んでいたバイル、そしてトリスト、シハタを呼んだ。

「バイル、シハタ。戦陣を張り次第すぐに通信球を設置しろ。帝国軍との兵力差がこれだけあると、判断の遅れや状況の読み違いは命取りとなる。些細なことでも構わないから何か少しでも状況に変化があったらすぐに本陣に連絡をいれてくれ」

「はっ」

「トリスト、お前も本陣に通信球を設置したら、必ず誰かそばにいるように手配しておけ」

「かしこまりました」

 その後、二、三の打ち合わせをしている内に本陣設営予定地に辿り着いた。ここでバイル、シハタそして第一、第二師団と別れ第三師団が本陣の設営を開始した。この場所から戦陣予定地までは半刻程で肉眼で確認できる位置にある。

 ビルトは第三師団に対し指示を与え、細かな部分はトリストに任せると、前方の戦陣を遠巻きに眺めた。既に予定地に到着し、戦陣も設営を開始しているようだった。

 王国騎士団の作戦は二段階に分かれており、まず第一段階としてトリトア渓谷の出口に戦陣を張り、三師団を交代させることにより士気と体力を維持しつつ、強行に渓谷の突破を試みてくるであろう帝国軍を先頭の兵から徐々に削る。そこで帝国軍は撤退すればそれで終わりだが、撤退せずに侵攻を続けてくる場合、第二段階として数が減り帝国兵の士気が著しく下がった段階で、帝国軍を王国領内に引き込み三師団で包囲して迎え撃つことになっている。これは、渓谷の突破を目標に掲げる帝国軍を少数で迎え撃つには有効な戦法と思われた。

「ビルト様、本陣の設営が終わりました」

「よし、戦陣からの報告はどんなことでも随時伝えれろ。些細なことでも構わん」

 設営完了の報告に来たトリストに指示を与えるとビルトは本陣の自らのテントに入っていった。


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