表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
インペリアル・ガード  作者: 島隼
第二章 帝国の策動
14/34

第二章 【4】

 ダルリア王国で王家とレッド達が夕食を共にしていたころ、ドイズ・ベイルは自らの執務室の

窓から、闇夜の帝都の見下ろしていた。

 入り口の扉近くにはザイルが報告のために来ている。

「間もなく外征軍の準備が整います」

「…そうか」

 ドイズは帝都を見降ろしたまま返事をしが、ザイルからはドイズの背中しか見えずその表情は伺いしれなかった。

「それと、例の件は評議会には伝えなくてよいのですか?」

「必要ない。ダルリアには諜報部隊がいるという話もある。漏洩を防ぐためにも必要な人間だけが知っていれば良い」

「しかし、評議会の方も情報が足りずに陛下の案の承認に支障をきたしてきています」

「それはお前の方でなんとかしろ」

 ドイズはあまり評議会には関心がなかったのか、感情の無い声で返事をした。

「………はっ」

 ザイルが複雑な表情で返事を返すと、ドイズは振り向いて自らの執務机の席についた。

「それより、外征軍の準備が出来次第ダルリアに向けて進軍を開始しろ」

 ドイズの表情からは苛立ちが感じられた。否決されることは稀だが評議会の承認を逐一取らなければならないことに煩わしさを感じているようだった。

「はっ。数日中には進軍を開始します」

「ダルリアの国境に近づいたら一旦進軍を停止し、向こうの動きを待て」

「よろしいのですか?ダルリアに早期警戒させることになるのでは?」

「構わん。向こうが先に動いてくれたほうが好都合だ。もし動きが無ければ予定通り行動しろ」

「かしこまりました」

 ひと通りの報告が終わるとザイルは一礼をし部屋を後にした。

「もうすぐだ。ダルリアは我が手に落ちる……」

 残されたドイズは背もたれに体を預けると、自らを落ち着かせるように一人呟いた。


   *************************


 王家との夕食から数日後の昼過ぎ、レッドは王宮の敷地内にある近衛騎士達の宿舎の前にいた。レッド一人ではなく、他にバルクードと若い近衛騎士が三人、そしてジュリアの姿があった。全員の手には支給されている近衛騎士の剣ではなく堅い木で作られた木剣が握られていた。

 今日は若い近衛騎士達の剣術の鍛錬の日だった。近衛騎士団では定期的に若く経験の浅い近衛騎士達に三騎士や経験豊かな近衛騎士が稽古を付けている。そして、今日はレッドとバルクードが講師役として稽古を付ける日だった。

 「次!!」

 レッドの前には若い近衛騎士が一人、両膝を付き肩口を押さえている。今しがたレッドに打たれたところだった。近衛騎士団長であるレッドに若い近衛騎士ではとても相手にならないが、鍛錬の時のレッドは容赦がない。

 「はい!!お願いします!!」

 打たれた近衛騎士が後ろに下がると、ジュリアがレッドの前に対峙して木剣を両手で構えた。今しがた、若いが自らよりも経験のある近衛騎士が打ちのめされたのを見ても、ジュリアは怯んだ様子はない。

 「手加減しないぞ」

 レッドは小声そう言いながら片手で剣を構えると、ジュリアは静かに頷いた。

 しばらく二人は対峙していたが、先に動いたのは予想外にもジュリアだった。構えていた剣を横に薙ぎ、レッドの剣を軽く弾いて牽制し、その後一瞬下がると剣を腰に構え一気にレッドの腹を目掛けて突いてきた。その速さもかなりものである。

(悪くない。牽制なんて覚えたのか。が、まだまだ)

 レッドは弾かれた剣を素早く戻すと、ジュリアの突き出した剣に当て軌道を逸らすと同時に体を回転させその突きをかわした。ジュリアは勢い余ってレッドの横を通り過ぎ、バランスを崩して倒れそうになるのを、なんとか踏みとどまって振り向いて再度レッドと対峙した。

「戦法も速さも悪くないが、せっかく牽制したのなら後ろに引かずにそまま突いたほうがいい。例え一瞬とはいえ下がれば間が出来てしまう。相手によってはその間が致命的になる」

「はい!!」

 レッドが気付いた点を指摘するとジュリアは返事をしたが、表情が曇っていた。レッドは次を待っているが、ジュリアはなかなか仕掛けない。

(なんだ?その困ったような表情は?)

 ジュリアは何かを考えているようだが、やはり動かない。

(ひょっとして、今ので俺に勝つつもりだったのか……)

「来ないなら、俺から行くぞ!」

 レッドは少し呆れたようだったが、気を取り直し自らの剣を振り上げ一歩踏み出ると、ジュリアの頭部目掛けて剣を打ち下ろした。片手とはいえかなり強めの斬撃だった。それに対しジュリアは自らの剣を振り上げ、レッドが打ち下ろした剣を防ぎにかかる。ジュリアは打ち下ろされた剣に対して真横には受けず、剣先を少し下げて斜めに受けた。すると、レッドの剣はジュリアの剣を滑り軌道を逸らされ、その隙にレッドの剣とは逆側に逃れ体制を立て直した。

(よし、しっかり習得しているようだな)

 この受け方は以前にレッドがジュリアに教えた防ぎ方だった。ジュリアは成人男性の剣士と比べると、どうしても腕力に劣る。相手の剣をまともに受ければ力で押し切られてしまうだろう。しかし、この受け方であれば力勝負にはならず、うまくいけば相手は体制を崩し反撃に出ることもできた。

 再度ジュリアとレッドが対峙すると、今度はジュリアの方から仕掛けた。レッドに対して剣を横に薙ぎ、レッドがそれを剣で受けると、その後は連続で突きを混ぜながら攻撃を仕掛けてきた。レッドはそれを下がることなく剣で受けている。個人的にも相当鍛錬を積んでいるのか、ジュリアの攻撃の一つ一つには基本が備わって来ていた。

(相変わらず速い。斬撃も大分重くなってきたな)

 レッドだけでなくシードも認めるほどにジュリアの剣技は速い。錬度はともかく速さだけなら既に中堅の騎士ほどである。天分の才に加えて本人の努力もあり、上達の速度もかなりのものだった。だが、それでもレッドとまともに剣交えるには程遠い。

 ジュリアが連撃の中で剣を振り上げレッドに斬りつけると、レッドはそれを難なくかわし、ジュリアの胴を横に一気に薙いだ。

「くっ………」

 ジュリアは声にならない呻き声を上げると、両膝から前に崩れ落ちた。木剣は切れることはない

が、その分衝撃をまともに受けるため痛みはかなりのものになる。

「悪くはなかったぞ」

「………くぅ」

 レッドは既に四つん這いになっているジュリアに声をかけたが、呻き声のような返事が返ってくるだけだった。

「......いつまでもそうしているな。下がれ!」

「は……はい!」

 レッドはこういう時に決して助け起こしたりしない。ジュリアもそれがわかっているのか、なんとか立ち上がるとお腹を押さえ、苦しそうな表情をしたまま後ろの他の近衛騎士達がいるあたりまで下がった。

「よし。つ…?」

 レッドは次の近衛騎士を呼ぼうとした際に、走りながら近づいてくるシードの姿を目に捕えた。何事かと思ったのかレッドの方から近づくと、シードはレッドに顔を寄せ耳打ちした。

「どうした?」

「帝国の外征軍が進軍を開始しました」

「なに?どこに向かっている?規模は?」

「目的は不明ですが、ダルリアとの国境方面に向かっています。規模は、正確な数字ではないですが、三万から四万とのこと」

「………わかった。俺は陛下に報告する。お前は帝国の過去の資料を集めておいてくれ」

「わかりました」

 シードはそう言うと来た道を戻って行った。

 レッドは振り向いてバルクード達の方に向き直った。レッドとシードの会話が聞こえた訳ではないようだったが、雰囲気から察したのかバルクードが仕切り始めていた。

「バルクード!ここは任せる!」

「はっ!」

 レッドは剣術の稽古をバルクードに任せると足早に王宮へと入っていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ