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インペリアル・ガード  作者: 島隼
第二章 帝国の策動
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第二章 【1】

 ここはべルドラス帝国の帝都ベルド、ダルリア王国とセシル王国が同盟を組む二か月程前、王宮の敷地内にある評議会議場である。

 会議場には盗聴を防ぐため窓はなく、入り口も一つしかない。その入り口も内側と外側に見張りの兵が立てられている。

 その薄暗く殺風景とも言える内部を、壁に掛けられた魔石の灯りが照らしていた。会議場の中央には大きな長方形の会議卓があり、そのまわりには男女十名の帝国の民の代表者たる評議員達が座っている。そして入り口に近い席に、評議員ではないと思われる赤毛で顔立ちの整った若い男が座っていた。


「皆、揃ったようだな……。では、陛下からの話しを聞こう」

 評議員の議長である初老の男、ガイズ・ボドが赤毛の若い男に話をするように促した。

「はい。『事は順調に運んでいる。ダルリア王国へ外征軍を派遣する準備を急ぐ。評議会の意思を示せ』とのことです」

「『事』とは?」

 別の評議員が若い男に問いかけた。

「ダルリア王国を支配下に置くために必要な『事』です」

「詳しくは明かせないということか……」

「ふむ。ダルリア王国の軍勢の規模はいかほどか?」

 ガイズが誰にともなく聞くと同時に評議員達が各々の意見を述べ始め、議論が始まった。

「東西南北の四方面師団が各一万から二万、王都と公都を護る防衛師団が数千程、それに増援専門の緊急展開師団が一万数千程、総勢七万から九万といったところでしょうな。錬度もかなり行き届いているとのことだ」

「我々の半分にも満たないが小国としてはかなりの規模だな。まあ、我々がそうさせているのかもしれんが」

「ダルリアには我が帝国のように他国に進軍する外征軍はありません。全てが王国防衛のための軍で、帝国の国境警備軍と同種の役割を担っています」

「我々がダルリアを攻めた場合、最初から全軍をまとめて相手にするわけではないだろう。対峙することになるのはどれくらいだ?」

「前線となるであろう国境付近で対峙するのはおそらく、北方師団と緊急展開師団となり数は三万数千程だろう。南方師団と東方師団は距離的に見て短期間に援軍に来ることはできない。西方師団は距離的には近いがセシル王国と国境を接しているため同じく援軍にはこれまい。王都と公都の防衛師団はその性質上、我々がダルリア国内に進軍するまで動くことはないだろう」

「こちら側の動かせる外征軍の規模は?」

「南方の外征軍の四万程といったところか」

「それではダルリアの動員数と大差無いではないか。制圧は不可能だ!」

「陛下は南方の国境警備軍も動員せよとの仰せです」

評議員達の議論を聞いていた若い男が割って入った。

「国境警備軍を?それでは南方、セシルとの国境警備はどうするのだ?」

「セシルとの国境はルファエル山脈を挟み、それを越えるのは難しく、またセシル軍自体も小規模のため短期間であれば問題無いとのお考えです」

「確かにそうかもしれないが、しかし……」

 ………

 少しの沈黙が流れた。

「仮に攻め込むとして、名分めいぶんはどうするのだ?もっともな名分がなければ他国への信用を失う。他の国全てを敵に回すことになりかねない」

「ヒリーフの件がよいかと」

 若い男が答える。

「ヒリーフ…、ヒリーフの奪還ということか。多少強引ではあるが、確かに詳細を知らない他国には名分として成り立つかもしれんな」

 ………

 今度はしばらくの間沈黙が流れた。評議員の中にはダルリア王国への侵攻に賛同しない者もおり、積極的にダルリア王国への侵攻を承認する動きにはならなかった。

 べルドラス帝国では国王の提案に対して、帝国の民の中から選出され、さらに国王に任命された評議員達が国内外の情勢などを鑑みて検討し、承認もしくは却下する。

 但し、国王が評議員の最終的な任免権を持つため、確かな理由が無い限り簡単には却下できなかった。

「評議会の意思をお示し下さい」

 沈黙がしばらく続いた後、国王側の使いでもある若い男が議論を先に促した。若い男は評議員ではないため、国王の意思を評議員に伝えることはあっても自分の意思を伝えることはない。

「ダルリアへの侵攻か。この大陸に覇を唱え、その支配者たる我々が平和と安定をもたらすという建国以来の帝国の悲願達成のためには、確かにダルリアは目障りな存在だ」

 彼らの言う『平和と安定』が、どういったものであるか、誰に対するものであるかは定かではない。

「確かにロビエスと対峙する前に必ず潰しておかなければならない存在ではある」

「うむ。あまり野放しにしておいてロビエスと手を組まれると厄介だ」

「ダルリア王国を制圧、もしくは支配下に置ければその先の都市同盟も降伏するだろう。そうなれば後はセシルとロビエスのみ」

「セシル王国はルファエル山脈のせいで攻め難かった、ダルリア制圧後にダルリア側から回り込めば攻めやすい。そうなれば残りはロビエスのみとなろう」

 評議員達は尚も議論を続けたが、その意思は侵攻の承認に傾きつつあった。しかし、議長のガイズはしばらく前から目を閉じ、頭を顔の前で組んでいた手の上に載せ何か考え込んでいるようだった。

 ガイズは帝国内の幹部としては珍しく穏健派であり、また十二年前のダルリア王国への侵攻の失敗時からの評議員でもあるため、簡単には賛同できないようだった。

「ガイズ殿?」

 評議員の一人が声を掛けると、ガイズは語り始めた。

「私としては賛同しかねる。十二年前もダルリアへ侵攻したが失敗した。あの国の騎士団はあなどれん。そのことは陛下も御存じのはずだ」

「では、帝国がまた失敗すると?」

 若い男はガイズに視線を送った。

「そうは言わん。我々も十二年前と比べ軍の規模は拡大し、組織化も強化した。だが、圧勝とはいくまい。陛下はなんと?」

「『我々の軍の被害は最小限に抑えられる。期間もそれほどはかからない』、と」

「なるほど。それが『事』というわけか」

 そう言うとガイズは顔を上げた。

「ふむ。評議員達よ、もう議論は出尽くしたかな?意見は割れているが、これ以上続けても統一見解は出まい。各々心の内は決ったかな?」

 ガイズは評議員達を見まわし、反応を伺った。

「では評議員達よ、法に則り決をとる。ダルリア王国への侵攻に賛成する者は起立を」

 ガイズがそう言うと賛成する評議員達は立ち上がった。べルドラス帝国の評議会では意見が割れた場合は起立による決を取り、過半数を占めた意見が採用される。

 起立した人数を胸の内で数えたガイズは、複雑な表情を浮かべていた。

「わかった。座ってくれ」

 起立した評議員達を座られせると正面にいた若い男に視線を送った。

「では、ザイルよ。評議会の意思を伝える……」

 そう言うとガイズは若い男ザイルに評議会の意思を伝えた。

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