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インペリアル・ガード  作者: 島隼
第一章 ダルリア・セシル同盟
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第一章 【9】

 同盟当日の晩、レッドは近衛騎士達を通常の体制に戻すと、自室に戻っていた。ここ数日、調印式の準備や強化警備でほとんど休んでいなかったため、少し長めの休みを取ることにしていた。

 椅子に座りいつも通り葉巻を楽しんでいると唐突に部屋の扉が叩かた。

「ボスト・バンテスです」

(なんだ?)

「入ってくれ」

 レッドが返事をすると扉が開き、ボストとシードが部屋に入ってきた。二人とも鎧を着ておらず軽装だった。

「なんだ、シードも一緒か。どうした?」

「ボスト殿が良い酒があるから、久しぶりに三人で飲もうというのでな」

 シードも休憩の時間としているのか、レッドに対する口調が友人に戻っていた。

「これです。都市同盟からの交易品で、今の時期にしか手に入らない逸品ですぞ。調印式も終わったし、たまには良いでしょう」

 ボストが手に持った酒をレッドに見せ、そのまま部屋の端にあるテーブルの上に酒を置いた。

「ほお、悪くないな。ちょうど飲みたいと思っていたところだ」

 レッドも椅子から立ち上がり、壁際にある棚よりグラスを三つ取り出してテーブルに置いた。

 三人でテーブルを囲むソファに座り、ボストが持参した酒を飲みながら語り合った。しばらくするとシードが今回の同盟について話を始めた。

「しかし、今回のセシル王国との同盟は急な感じがしたんだが、前々からあった話なのか?」

 シードはレッドのグラスに酒を注いだ。

「国家間の同盟の話だから俺も詳しくは聞いていないが、確かに急な話ではあったらしい。セシル王国側から直接元老院宛に申し出があったとのことだ」

 レッドが注がれた酒に口を付けると、酒の瓶を取りシードのグラスに注いだ。

「ああ、すまない。しかし、セシル王国とはいままで特に交流があったわけではないだろう。しかも今回の同盟は軍事同盟だ。普通に考えたらまず交易や文化の交流があって、信頼関係を気づいたら軍事的な同盟に発展するものだと思うが」

 そう言うとシードも注がれた酒に口を付けた。

「セシル王国も帝国の驚異に晒されておる。国境線の長さだけをいえばダルリア以上だ。我々と同盟を組むことにより帝国を牽制したいのであろう」

 ボストはそう言いながら自分のグラスに、もはや何杯目かわからない酒を注いだ。レッドとシードは相当飲んでいるボストを心配して酒を注がないようにしていたが、ボストは気にせず手酌で飲み続けていた。

「ボスト殿、飲み過ぎじゃないか?」

 レッドがボストに注意を促すと、「量の内じゃない」と言って受け流した。レッドもボストの尋常じゃない酒の強さは知っているためか、その場それで引き、話しを戻した。

「確かに、同盟の話を受け入れるか否かは元老会議でもそうとう揉めたらしい」

 レッドは近衛騎士団長として元老会議の議事録を閲覧する権限を有している。

「揉めたとは?」

「何を目的とするか、だ。確かに帝国軍対ダルリア・セシル連合軍の全面衝突となれば、同盟国としてセシル王国も防衛範囲となったダルリアにとっては、逆にセシルは重荷となってしまう。セシル側は自国防衛で手一杯だろうから、こちら側に兵を回せないだろうしな。しかし、そもそも全面衝突を起こさせないことを目的と考えると話は違ってくる。セシルと同盟組むことにより、帝国は我々のどちらかに攻め入る場合は両国を相手にしなければならず、同盟によって伸びた国境線にくまなく軍を配置しなければならない。帝国にとっては攻めにくくなったのは確かだ」

「なるほどな。帝国との衝突後ではなく、その前段階の予防的措置としての同盟、ということか」

 シードを手に持ったグラスを見つめながら言った。

「陛下は相当迷ったようだが、他にも元老の一部は同盟関係により交易の相手国が増えることも魅力のようでな。その強い後押しもあったようだ」

 レッドは苦笑いしながら言った。

「帝国はここ十年程他国への侵略は行っておらん。であれば最悪の事態を想定するよりも得策ということじゃろう」

 レッドとシードの話しを黙って聞いていたボストは、さらに酒を注ぎ足しながら補足した。

 その晩は遅くまで三人で語り合った。ボストは普段は大公宮にいるため、こういう集まりは久々であり話は弾んだ。


「さて、酒も無くなったし、そろそろ寝るか。明日は公都に戻らねばならん」

 既に日も変わった頃、ボストはグラスの酒の飲み干すと立ち上がった。三人は常に緊急時に備え酔うほど飲むことはしないため、レッドとシードはある程度で飲むのを止め、ほとんどボストが飲んでいた。しかし、ボストも特に酔った様子はない。

「そうだな」

 シードも続いて立ち上がった。

「それでは団長」

 ボストはそう言うとシードと共に敬礼をし部屋を出た。


レッドは窓の外を眺めると、深淵を月が照らしていた。


第一章 完

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