プロローグ 【1】
「評議会の結論は出たか?」
ここは大陸の北西部、広大の領土を有する大国べルドラス帝国の帝都ベルド、その中心にそびえ立つ絢爛なる宮殿の最上階にある国王の執務室である。
その部屋の奥にある巨大な窓の窓際に、齢六十半ば、髪と顔には歳相応の白髪と皺を刻み、くすんだ赤色のマントを羽織った大柄の男が窓より夕日に染まる帝都ベルドを見降ろしていた。
その男の口から発せられた低いがはっきり聞こえる声の問いかけに、窓の反対側の扉の前にいた若い男が答える。
「はい。評議会は陛下の提案を承認しました」
「そうか」
結論がわかっていたのか、男の声に感情はない。
「他に何かあるか?」
「別件ですが、先ほど彼らからの返事が届きました。条件次第では協力するとのことです」
「条件とは?」
「制圧後の領地維持と、交易の独占権です」
「身の安全と金......か、単純だな。その他の要求は?」
「ありません」
「欲の無いことだ」
男は振り向くと、すぐ後ろにあった執務用の机に座った。
「承知したと伝えろ」
「かしこまりました」
「こちら側の軍の準備はどうなっている?」
「各地に展開していた外征軍に対し帝都への招集を通達しました。しかし、周辺諸国に警戒感を与えないように行動しているため、召集の完了にはしばらく時間が掛かると思われます。国境警備軍の一部へは連絡済みです」
「わかった。下がれ」
「はっ」
若い男は一礼し、扉から外に出て行った。
「ダルリアの制圧。これが成ればの大陸に覇を唱える日も大きく近づく」
そう呟くと、この部屋の主、国王ドイズ・ベイルは静かに目を閉じた。