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可能性

作者: 山田と山本
掲載日:2026/05/18

森見登美彦様の四畳半神話体系を最近読んだので、その勢いのまま書きました。

可能性という言葉を無限定に使ってはいけない、本当に素晴らしい言葉だと思います。

先に断っておく。この物語に少年漫画的な友情努力勝利、キラキラと輝く青い春というものを期待するなら今すぐ踵を返したまえ。

これは、高校生活における私のどうしようもない失敗談であり、それが1年以上も尾を引いた哀れな男の物語である。

そんな、卑屈な物語を書くなという声もあるだろう。全くもってその通りである。これを書くのは、私の自己満足でしがない。が、こんな私を反面教師にして笑ってくれたら、幸いである。


高校1年の春、多くの部から部活勧誘のチラシをもらった私の目は希望に満ち溢れており、さながらボスを見つけたミニオンのようであった。一体どんな人がいるのだろう、どんな部活があるのだろう、私は新しい環境に緊張しつつも、それ以上にワクワクしていた。

何より、中学時代は楽しかったものの、慎ましい男たちと慎ましく遊んでいただけであったため、高校こそはキラキラしたエフェクトが入るような薔薇色の生活を送ってやると息巻いていた。

人がそんな簡単に変われるわけないのにである。そこに気づかず何の準備もせずにいった私は、救いようもない阿呆である。


新学期初日を当たり障りなく終えてしまった私は、ここからどうやって薔薇色の高校生活に持っていけるかを考えた。考えて考えた結果とりあえず話しかけることにした。私は、時折躊躇しながらとにかく色々な人に話しかけた。隣の席の子に始まり、前後へと行き、最終的になぜか坊主頭にしている女子と肩まで伸びるであろう髪を一つに束ね、制服のネクタイが異常なほど奇抜なフリーターのような男以外は全員に声をかけた。

だが、これまで何となくで友達を作って来た私にとってこれはあまりにハードルが高かった。彼らとの会話のラリーは10もしないうちに終わり、最終的に残ったのは小学校からの幼馴染である小山マリという背の低い女子だけであった。


「争いのない平和な世界を!」

私は仕方なく彼女と部活見学をすることにした。私は高校に新しさを求めていたため、中学にはない部活を求めた。先ほど行ったのは愛と平和部である。そのあまりの胡散臭さに私は卒倒しかけたが何とか堪え説明を聞いた。

その部曰く活動目的は世界中に愛を届けることだという。高校生に何ができるんだと私は早々に脱落しスマホをいじっていた。大体争いによって世の中が発展してきたということを彼らは知らないのであろうか。だが彼女的にはそうでもなかったようで

「とっても素敵な部活だったね!!」と言った。彼女の将来が不安である。


次に訪れたのはカルタ部である。カルタはちはやふるを読んだことがあるため少し興味があった。ここに入るのもありかもしれない、そんなことを考えながら、カルタ部へ足を運んだ私はすぐに後悔した。そこには、なんとかるたの札を使って、手裏剣バトルにこうじる男たちがいたのである。彼らの中の1人が私たちを見るなり

「わあ、新入生だ!歓迎するよ」とやけにニコニコしながら案内した。

私たちに声をかけた人が部長だったらしく、彼はこの部について説明した。彼曰く、この部は本気でかるたの札を投げ合い、ドッジボールのように勝負しているらしい。全くもって意味がわからない。歌を書いた偉人たちに祟られてしまえと思い、こうはなるまいと私はカルタ部を後にした。彼女はやはり

「カルタ部めっちゃ面白そうだね!!」と言った。彼女の将来が不安である。


次に訪れたのはワンダーフォーゲル部である。名前からイメージが全くもって想像できず私はワクワクしながら部室を訪れた。コンコンとノックをしドアを開けると、大量のむくつけき男たちがこちらをじろっと見つめた。おそらく2メートルはあるだろう男たちが、ムワッと男臭を醸しながらこちらに来る。私は思わず後退りした。すると男たちは、ニコッと微笑み言った。

「やだー、新入生ちゃん可愛い!ワンゲルに興味があるなんてとっても嬉しいわ!さぁ入って入って!」

中途半端に高い声に私は恐怖を覚えた。だが隣にいる人にはそうでもないようで

「面白そう!ワンダーフォーゲルって一体何ですか?」

目を輝かせながらズカズカと入っていった。こんなヤバそうなところに入るなんて、、、やはり彼女の将来は不安である。

ワンダーフォーゲル部、以下長いのでワンゲルと呼ぶがそこは端的に言うと山登りをする部活だった。どうりで男が多いわけだ。彼らは山登りのために日々筋トレに励んでいると言う。彼らが自慢の筋肉をフンフン言いながら見せるのを私はため息をつかずにはいられなかった。私たちはとりあえず保留でと彼らに言って部室を後にした。

「ワンダーフォーゲル部かーめっちゃ楽しそうだったね!」

彼女はそう言うがはっきり言って神経を疑った。私は、紳士でダンディーな男にはなりたくともゴリマッチョにはなりたくないのだ。それに、

「あんなに男臭いところだったのによくそんな楽しそうだね」

と聞いた。

「ふふ、ひ・み・つ」

彼女は人差し指を手に当て言った。彼女の思考原理は謎である。

ふと窓を見るとだいぶ日が傾いていた。次で今日はラストにしよう、そう言って私たちは最後の目的地へ向かった。


そこはどうやら特別棟の端にあるらしく私たちはあっちらこっちらと迷いながら何とかそこへ辿り着いた。

紙飛行機部。

ドアにデカデカと書かれていた。しかもどうやらマジックペンで書いてあり、この学校は未来永劫紙飛行機部を残し続けるのかとか思っていると、彼女がコンコンとノックしていた。ここに関しては正直私は期待していなかった。どうせろくな部活ではない。なぜ紙飛行機を飛ばすだけの部活で私の貴重な青春を無駄にせねばならんのだ。だが彼女が行ってみたいと言って聞かないので仕方なく、そのドアを開けた。

そこには、いと清らなる女子がただ1人ポツンと座っていた。髪はまるで平安時代の貴族たちを思わせるほど長く、ポニーテールに結んでいるが先端が床にくっつきそうである。その視線の先には折り紙があった。きっと紙飛行機を折るところなのだろう。私たちが思わず見惚れていると長髪の乙女はこちらにちらと視線を送った。

「あなたたち新入生?」

冷たい声だった。私たちは首肯した。

「そう、てことは部活見学に来た感じね。こちらにおいで」

そう言って手招きした。その怪しくも妖艶な様子に私の足は吸い寄せられた。しかし、マリはどこか躊躇した様子であった。

「どうかした?」

私がそう聞くとマリは不安そうな目をこちらに向けた。

「なんかちょっと変じゃない?」

私の耳元でそう呟いた。今更である。大体変でいうならこれまでの部の方がよっぽど変であっただろう。昔からそうだったが私はマリと絶妙にそりが合わない。

私は引き止めようとする彼女を置いて長髪の乙女の方へ向かった。マリはやはり不安そうであったが仕方なくといった感じで私についてきた。

長髪の乙女の隣に座ると、彼女は自己紹介と部の説明をした。彼女は、紫若葉と自らを名乗った。名前まで平安じみていると思った。名前を名乗る彼女の仕草もどことなく妖艶で、率直に言ってしまえばエロスを感じぜずにはいられなかったのだ。

彼女曰く、紙飛行機部はその名の通り紙飛行機を作って飛ばす部活だという。なるほど、想像通りである。だが意外にも歴史は長いようで、かれこれ50年以上は続いているそうだ。隣を見ると、マリが興味深いと頷きながら聞いている。先程の不安は消えたのであろうか。

だが長年続いた紙飛行機部にも危機が訪れているという。

「ピンチって一体?」

「端的に言うと、廃部の危機ね。今私以外に部員はおらず、私はすでに3年生。今年誰かが入らなければ伝統ある紙飛行機部は廃部になるのよ」

紫さんは悲しそうに目を伏せた。

私たちはその後、紫さんと体験で紙飛行機を作った後そこを後にした。


周囲はすでに真っ暗で目の前にいるマリの顔もよく見えなかった。

帰り際、マリはどこの部活にするか考えると言っていたが、私の腹は決まっていた。


翌日授業を適当にこなした私は、一目散に紙飛行機部へと向かった。理由はシンプル。彼女の美しさ、そして妖艶さをもう一度この目で味わいたかったからだ。部室にはすでに紫さんがおり、彼女はちらとこちらを見た。私は真っ直ぐ彼女のもとへ行き入部届を差し出した。

彼女は驚いたようにこちらを見たが、特に何も言わずそれを受け取った。

その日から私は、のちに入部して来たマリと紫さんとで紙飛行機部で活動を始めた。

マリは驚くべきことに紙飛行機部を含め、愛と平和部、カルタ部、ワンゲル部と4つ全ての部に入ることにしたらしい。恐るべきバイタリティである。その活力を少しくらい分けて欲しいものである。

部活中の紫さんは基本的無言で紙飛行機を折っているか、読書をしているかの二択であった。そして、そんな無口なレディーと仲良く話せるような社交性は私には全くなかったのであった。なので、部活での会話はほとんどマリが起点である。

ある時は

「紫先輩は、休日何してるんですか」

「そうね、読書かしら」

またある時は

「先輩は、ご趣味とかないんですか」

「強いて言えば読書かしらね」

はたまたある時は

「これまでの紙飛行機部ってどんな感じだったんですか?」

「今と同じでのんびり本を読んだりしてたわ」

などなど、基本的にマリが話しかけて紫さんが答えると言うのが定番の流れであった。今のところ私が紫さんについて知っていることは、彼女が読書好きということだけである。私は、己の社交性の無さを呪った。


最終下校を知らせるチャイムが鳴ると、紫さんはいつも私たちを先に追い出す。何か大切な用事があるという。それが何であるのか気になりすぎて夜も眠れない日もしばしばだったが、ついぞ直接聞くことはなく夏休みも目前に迫った7月のある日、私とマリはともに下校していた。

下校時、マリは他に入ってる部活であったことをよく話してくれる。

「今日は、愛と平和部で平和について教えてもらったんだー」とか

「今日は、カルタ部で結構いい勝負したんだよー」とか

「明日は、ワンゲルの人たちと一緒に山登りなんだ!」とか

そう語るマリの顔はとても楽しそうだった。対して私は紫さんと一緒にいても大した会話もなく、何のイベントもない日々を送っていた。これでは、灰色の青春そのものではないか。どうなっているというのだ。どこで私は間違えたというのだ。


ところで諸君、サバ缶くんを知っているであろうか?サバ缶に小さい体が生えたキャラクターで、一部から絶大な人気のあるキャラクターだ。私は昔からこのキャラだけはなぜか好きで、その日は気分転換ということでカバンにサバ缶くんのキーホルダーをつけて登校した。

その日は夏休みを特段何のイベントもなく終えた後、久しぶりの学校であった。

新学期の予定を聞き私は、紙飛行機部へと足を向けた。正直足が重かった。また、あの生産性のない日々を繰り返すのかと、だが今更辞める勇気を私にはなく、のそっとその扉を開けた。

「久しぶり」

紫さんはこちらをちらと見るとそう言った。紫さんは、髪をバッサリと切っており、肩より少し長いくらいだった。

「お久しぶりです。なんか全然雰囲気違いますけど夏休みどうでした?」

私は先輩の隣の席に座り言った。

「私は、読書と勉強ね。私ももう受験生だから」

私はその髪のことを聞きたかったのだが、きっと彼女なりの事情があるのだろう。そう己を納得させた。

「そうっすか」

僕はカバンから本を取り出した。

「それ、サバ缶くん?」

紫さんが机の上に置いた僕のカバンに付いてるサバ缶くんを指差しながら言った。

「ええ、まあ」

「やっぱり、私もそれすごい好きなの」

そう言って彼女は柔らかく微笑んだ。

妖艶でありながら、無口な彼女の見せるその優しげな様子。その瞬間、私は彼女に惚れたのである。


さて、それからの私は紫さんに積極的に話しかけるようになった。具体的にどのような会話をしたのか、それをここで書くのは私の恥を見せつけるようであまりにも苦しいので控えさせていただく。


3月9日、卒業式が私の学校で行われた。紫さんもこれで引退だ。下級生の私たちは、卒業式に出席するため登校していた。

この日私は大いなる決意をしていた。一世一代の大勝負である。そう、私は紫さんに告白することを決意したのだ。


卒業式は粛々と行われた。多くの3年生が泣きながら体育館を去っていくのを目にした。私は、紫さんを必死に探した。紫さんは3年生の退場行進の最後の方にいた。その顔はいたって普通の真顔であった。私は、いつも通りだなと思うと同時に、私との日々は別れを惜しませるほど楽しくなかったのかなと変な想像をしてしまった。


卒業式が終わってひと段落した後、私は紙飛行機部へと足を向けた。今日は先輩の引退式なのだ。マリは、ワンゲル部の引退式に顔を出すようで来るのは遅くなるそうだ。

中に入ると、すでに紫さんがいつものような表情で座っていた。この光景を見るのも最後かと少し寂しさを覚えた。

「ここに来るのも今日で最後ね。なかなか楽しい1年だったわ」

僕が椅子に座るなり彼女はそう言った。

「そうですか…俺は、ちょっと寂しいっす」

思わず本音が漏れていた。

紫さんはびっくりしたようにこちらを見つめた。

「驚いた、私はてっきりこんな意味のわからない部活つまらないと感じてると思っていたわ」

「そんなことないです!あの、先輩と一緒の部活動めちゃくちゃ楽しかったです!」

私は言った。

「ありがとう、その気持ちだけで私は本当に嬉しいわ」

そう言う彼女の顔は慈愛に満ちていた。その微笑みが私の決心を固めた。

ここで言うしかない、例えこの先に輝かしい未来が待ってないとしてもここで行かなければ絶対に後悔する。

が、その思いは喉の奥でとどまり続け、ついぞ打ち明けることはできなかった。

その後マリが来て、次の部長に私が決まった。そして、2人で紫さんに感謝の言葉を告げ引退式は終わった。


その後マリと共に家路についた。彼女はワンゲル部はこんな感じだったとかカルタ部はこんなだったとかずっと話していた。だが、その話を思い出すことは全く出来ない。頭の中はなぜ気持ちを伝えられなかったのだという、後悔の色で満ち満ちていたからだ。頭の中で紫さんのことをぐるぐると考えていた。


その後私は2年生になった。紙飛行機部には新たに1年生が入ったが、その子はすぐに幽霊部員となった。

私は、ふとした瞬間に紫さんのことを思い出してはため息をつく日々が続いていた。もし、あの時告白できていたらどうなっていただろう、今頃紫さんと一緒に映画に行ったり、買い物に行ったり、薔薇色の青春が待っていたのではないか。それなのになぜ告白できなかった。やり直したい…


そして3年生となったある日、私はマリと共に下校していた。

マリは紙飛行機部を除く、他3つの部活全てで部長となり、後輩からも慕われているようだった。その日も、部活で起こったことを楽しそうに話していた。

「明日ワンゲル部で山登りに行くんだ!今回から新入生も参加だからめっちゃ楽しみなんだよね」

そう語るマリの顔には笑みが浮かんでおり、そのあまりの眩しさに私は思わず目を逸らした。

くそぅ。これでは、私が嫌悪した灰色の青春そのものではないか。私が自己嫌悪のループに再びハマっていると

「ねえ、今日というか前から思ってたけどなんか悩んでる?」

心配そうな顔でこちらを見つめるマリがいた。

「あ、ああ何でもない」私は誤魔化すように言った。

「うそ、詳しくは知らないけど紫先輩のことでしょ」

図星だった。顔に出てしまったのかマリは小さく「やっぱり」と呟いた。

「何があったのか詳しくは聞かないけど、過去に囚われるのはやめた方がいいと思うよ」

なぜそんな風に諭されなきゃ行かんのだ。怒りが募る。

「と、囚われてなんかない!」

思いの外声が大きくなってしまった。マリが一歩後退りした。

「あ、ごめん…」

マリは何も言わず1人歩き出した。

私は慌ててその背中を追いかけた。だが隣には、立てなかった。そのため、私はマリの2歩ほど後ろを歩いて行った。


私の家が見えてきたところでマリはその足を止めた。

「可能性という言葉を無限定に使ってはいけない。今ここにいる私以外他の誰にもなれない私を認めなければならない。

この言葉は、私がある小説を読んで感動した言葉なんだ。

何があったかは聞かない、けどこの言葉を君に送るね」

そう言ったマリはこちらに振り向いた。

「また明日ね!」

にっこり笑って、彼女は走り去って行った。


家に帰った私は、自問自答を繰り返した。今ここにいる私とは何だ?それは簡単だ。何をするでもなく時間を浪費するただの高校3年生だ。いつまでも過去を振り返り続ける人間だ。私は勇気を出せなかった、このことを認めなければならない。もしかしたらこうであったという過程の世界から脱出しなければならない。

そうだ、私がしなければならないのは過去を振り返ることではなくて、、、


次の日、学校に着いた私はマリの元へ急いだ。マリは教室で1人読書をしていた。私は彼女に駆け寄った。

「マリ、あのさ本当に今更なんだけど俺もワンゲル部やカルタ部に入ってもいいかな」

マリは一瞬驚いたようであったが優しく微笑んだ。

「もちろん」


私は前に進まねばならない。そこに薔薇色の青春があるかはわからないし、今更誰かと付き合うなどもできないだろう。それでも私は、残りわずかに残された高校生活を無為であろうと楽しく過ごしたいのだ。


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