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婚約破棄、承知いたしました。ただし、返していただくものがあります。  作者: あけはる


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第一話 婚約破棄は、夜会のまんなかで

軽めの婚約破棄ざまあ短編です。

全2話で完結予定です。

「エリシア・フォン・ローゼン! 君との婚約を破棄する!」


 王城の大広間、その声はよく響いた。


 楽団の演奏が止まり、ざわめきが広がる。

 何百もの視線が、一斉にこちらへ向けられた。


 けれど――


「そうですか」


 エリシアはただ静かに答えた。


 驚きはない。

 むしろ、やっぱり来たかと思ったくらいだ。


 エリシアの婚約者、フレデリック・バルデ侯爵令息。

 

 ここ数か月の彼の行動は、あまりにも分かりやすかった。


 夜会に一緒に出なくなり、手紙の返事は遅れに遅れ、

 やっと会えても、たいそうよそよそしい。

 

 そして先週、ある令嬢との親密な姿が

 あろうことか王都のゴシップ誌にすっぱ抜かれ

 社交界はその噂で一面、持ち切りだった。


 

 で、そのフレデリック・バルデ公爵令息の秘密の恋の相手というのは、

 ミレーヌ・サフォード男爵令嬢だ。


 貴族学院の3年生。

 5年生であるエリシアとフレデリックとは2歳離れているが

 彼女は学院内ではたいそうな有名人だったのでエリシアも当然知っていた。


 金髪碧眼に白くか細い手足。

 儚げに揺れるその瞳はいつも涙を湛え、庇護欲をそそられる。


 入学時から、婚約者がいる複数の高位貴族の令息に近づいてはちょっかいをかけ

 多くの貴族令嬢から不興を買っているのだ。


 そのミレーヌが今、フレデリックに寄り添って登場してきた。


 ミレーヌはフレデリックの腕に手を添え、

 今にも泣き出しそうな顔をしていた。


「聞いているのか、エリシア!」


 苛立った声が飛んでくる。


「はい。聞いております」


 エリシアはゆっくり扇を閉じた。

 こういう時は相手のペースに巻き込まれないのが貴族の鉄則だ。


 周囲にはすでに、ひそひそと異変を察した囁きが広がっている。


「ついに婚約破棄か」

「やはり噂は本当だったのか」

「サフォード男爵令嬢と一緒に登場されたわよ」

「ローゼン伯爵令嬢も赤っ恥ね」


 同情、蔑み、好奇心。

 幾重の感情をのせた嫌な視線が向けられる。


こういう時は相手のペースに巻き込まれてはいけない。


「理由を伺っても?」


 エリシアが静かに尋ねると、フレデリックは勝ち誇った顔になった。


「家の事業だの、社交界の約束だの、毎度口うるさく僕の運営にケチをつけた!

 お前は婚約者にあるまじき目立ちたがりだ」


「あげくのはてに、真実の愛を見つけた僕とミレーヌに嫉妬して、

 毎日毎日貴族学院でミレーヌを虐めていたそうじゃないか!」


 広間が一瞬静まり返る。


「ミレーヌが涙ながらに教えてくれたよ。だが、報復はしないでほしいと。

 ああ、なんと慈悲深いのだ、我が愛しのミレーヌ・・・!」


 大げさな身振りでひしっとミレーヌを抱き寄せるフレデリック。


「それに引き換えお前はどうだ、婚約者である僕を立てられず、

 ミレーヌを嫉妬深く虐め、まるで人の心がない!

 そんな女、次期侯爵である私にはふさわしくないのだ!」


 フレデリックの隣では

 ミレーヌが目に涙をたたえて震えている。


「フレデリック様……」


「ああ、愛しのミレーヌ。

 君は優しく、健気で、思いやりのある女性だ。

 ミレーヌこそ、私の隣に立つべきなのだ!」


 なるほど。


 どうやら彼の中では、完璧な脚本があるようだ。


 悪役令嬢を断罪する正義の鉄槌、婚約破棄。


 そして純粋で清廉なご令嬢との、真実の愛。


「そうですか」


 得意満面のフレデリックへ真正面から視線を返し


 エリシアはゆったりと微笑んだ。


「婚約破棄、承りました」





「……は?」


 悦に入っている二人など目に入らないかの如く

 エリシアは言葉を返した。


「お互い、望まない婚約を続ける理由はありませんもの」


「そ、そうだ!」


 フレデリックは勢いよく言った。


「君のような冷酷で思いやりのない人間とはもう、やっていけない!

 

 私は、ミレーヌと結婚するのだ!」


威勢の良いフレデリックから視線を外さないまま、

エリシアの口元は弧を描いて崩れない。


「ええ、それはご自由に」


「……は?」


「ですが」


 エリシアは一歩前へ出た。


「返していただくものが、ございます」




 ざわり、と広間がざわめく。


「はあ?返す? この悪女め、一体何を企んでいる!」


 困惑と怒りの表情をうかべるフレデリックをよそに

 エリシアは人差し指を一本立てた。


「まず」


「我がローゼン伯爵家が婚約と引き換えに

 バルデ侯爵家の染色事業に投資している資金、金貨1万枚」


 沈黙が落ちる。

 淀みなくエリシアの指は2を示す。


「2つ目、フレデリック様の身支度費用、3年分」


「な……」


「さらに侯爵家領で最近使用されている染料技術。

 あれはローゼン家商会のものです」


 3本の指を立てたエリシアは穏やかに言った。


「この技術提供も、婚約が解消される以上

 中止となります」


 フレデリックの顔から、みるみる血の気が引いていく。


「ま、待て……!」


 彼が叫ぶ。


「そんなことをしたら我がバルデ侯爵家は――」


「ええ、困りますね」


 エリシアは微笑んだ。


 今夜初めて見せる、冷たい微笑だった。


「ですが」


「婚約破棄を望んだのは、フレデリック様、あなた自身」


「当然、想定内でいらっしゃるのでしょう?」


 エリシアの笑みが深まった。


 ――静まり返った大広間


「実に、見事だな」


 張りのある低い声が響いた。





 集まっていた人垣が割れる。


 悠々と歩いて来るのは、銀灰色の礼装をまとった青年。


 第二王子ルシアンだった。


「婚約破棄、そのものは自由だよ」


 彼は静かに言う。


「だが、その結果の責任から逃げることはできない」


 そしてエリシアを見た。


「そういうことですね」


「はい、殿下」


 ルシアンは小さく笑った。


「素晴らしい」


 そして言った。


「もしよろしければ、この後少しお話できますか」


 まっすぐな視線だった。


 エリシアは一瞬驚いたが、礼を取る。


「承ります」


 エリシアは婚約を失った。


 だが同時に。


 まったく別の運命が動き出していた。

最後までお読みいただきありがとうございます。

楽しんでいただけましたら幸いです。

もしよろしければご評価やブクマ・感想などいただけますと嬉しいです。

よろしくお願いします!

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