第57話 国という呼び方
戦争が止まったあと、
残るのは静けさではない。
書類だ。
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ハブリスの一室。
机の上に、積まれた封筒。
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「承認書です」
「中立協定案」
「通商条約草案」
「国際登録番号の通知」
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リリアが淡々と読み上げる。
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「……多いですね」
ノアは、本気で嫌そうな顔をした。
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「正式名称は」
「カリクス連合国」
「代表は空席」
「行政責任者は輪番制」
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「輪番?」
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「あなた以外で回します」
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「……素晴らしいですね」
心からの賛辞だった。
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各国は理解していた。
ノアを代表にすると、
すべてが彼に集中する。
それは不安定だ。
だからこそ――
**仕組みを代表にする。**
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会議の場。
「カリクスは国家か?」
「はい」
「だが王はいない」
「軍もない」
「同盟義務も限定的」
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「……では何だ?」
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「環境だ」
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その言葉が、
記録に残る。
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ハブリス。
市場。
子供たちが、地面に線を引いている。
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「ここがカリクス!」
「ここが港!」
「ここが山!」
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円が、描かれる。
面は、もう完成していた。
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ノアは、その横を通り過ぎる。
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「……国、ですか」
誰にともなく。
「呼び方って」
「面倒ですね」
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それでも。
世界は、その呼び方でしか
扱えなくなっていた。
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カリクス連合国。
代表不在の国家。
戦わずして、
戦争を止めた国。
だが当人は――
今日も、ただの住人だった。
(つづく)
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