第54話 空席が、世界を決めた
世界会議は、静かに始まった。
怒号もない。
罵倒もない。
だが――
空気は重い。
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円卓の中央。
国名の札が並ぶ。
グレイシア。
ベルグラント。
ラーデン。
諸都市連合。
そして。
一つだけ、
何も書かれていない札。
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空席。
だが、誰も目を逸らさない。
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「議題は二つ」
議長が告げる。
「戦争の拡大を止めるか」
「封鎖に踏み切るか」
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沈黙。
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「封鎖は」
グレイシア代表が口を開く。
「自国の経済に致命的だ」
「だがこのままでは」
「均衡が続く」
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「均衡が悪いのか?」
ラーデンの外交官が、静かに問う。
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「……戦争が終わらない」
「だが、勝ちもしない」
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「それは」
「悪いことか?」
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視線が、
空席に向く。
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ベルグラント将軍が、立ち上がる。
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「我々は」
「一線を越えた」
「だが」
「決定打がない」
「兵も減らない」
「物価も崩れない」
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「戦争を続ける理由が」
「薄れている」
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それは敗北宣言ではない。
だが、
**継続不能の告白**だった。
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議長が、ゆっくり言う。
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「カリクスを」
「国家として正式に承認する」
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ざわめき。
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「中立国家」
「兵站中枢」
「非軍事主体」
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「代表は?」
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沈黙のあと、
ラーデンの外交官が言う。
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「不要だ」
「空席のままでいい」
「それが、彼らの形だ」
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議事録に、書かれる。
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> 「カリクス連合国を
> 中立国家として正式承認する」
> 「いかなる軍事的圧力も
> 禁止する」
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誰も、反対しなかった。
それが、
答えだった。
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同じ頃。
ハブリス。
ノアは、市場で魚を選んでいた。
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「今日は、静かですね」
「戦争の噂、減りましたよ」
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リリアが、息を切らして戻る。
「……決まりました」
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「何が?」
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「正式に」
「国として」
「承認されました」
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ノアは、一瞬止まる。
本当に一瞬。
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「……書類」
「増えますか?」
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「多分」
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「……面倒ですね」
それだけだった。
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夜。
世界は、一つの決断を終えた。
戦争を止めたのではない。
戦争が成立しない枠組みを、
作った。
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空席は、
最後まで埋まらなかった。
だがその空席が、
世界の中心になった。
(つづく)
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