第53話 封鎖という選択
戦争が思うように進まないとき、
人は「強い一手」を欲しがる。
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グレイシア王宮。
「戦線が膠着している」
「補給は安定」
「決定打がない」
重臣たちの声は、焦れていた。
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「原因は明白だ」
一人の将官が言う。
「カリクスだ」
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静まり返る広間。
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「奴らは中立を装いながら」
「双方に物資を流している」
「それが均衡を保っている」
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「ならば」
別の声。
「封鎖する」
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その言葉は、
簡単に出た。
だが、
重かった。
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「カリクス経由の物流を止める」
「関税強化」
「海上封鎖」
「圧力」
並ぶ案は、どれも強硬だ。
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「試算は?」
王が短く問う。
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財務官が、書類を差し出す。
「……三か月で」
「自国商業の三割が停滞」
「半年で」
「食料価格が上昇」
「一年で」
「内乱リスク」
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沈黙。
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「……封鎖は」
「敵より先に」
「自国を削る」
誰かが、呟いた。
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一方。
ベルグラント本営。
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「グレイシアが封鎖を検討している」
「こちらにも打診が来た」
将軍は、報告を聞きながら地図を見る。
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「……乗るか?」
「乗れば、短期的優位」
「だが」
「長期は不明」
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若い参謀が、震える声で言う。
「将軍」
「もし封鎖が失敗すれば」
「我々は」
「完全に孤立します」
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将軍は、深く息を吐いた。
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「……カリクスを」
「敵にするか」
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その問いは、
戦争より重かった。
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ハブリス。
倉庫では、今日も荷が動く。
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「北回り便、問題なし!」
「港町経由、遅延なし!」
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リリアが、報告を持ってくる。
「封鎖案が、出ています」
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「……そうですか」
ノアは、いつもの声で答える。
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「怖くないんですか?」
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少しだけ考えてから言う。
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「封鎖は」
「相手が」
「**本気で困ってから**やるものです」
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「今は?」
「まだ」
「困っていません」
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夜。
世界会議の緊急招集。
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「封鎖は最終手段」
「だがこの均衡は異常だ」
「戦争が、戦争になっていない」
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外交官が、静かに言う。
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「戦争が成立しない理由を」
「壊すべきなのか?」
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その問いに、
誰も即答できなかった。
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この日。
封鎖という選択肢は、
机の上に置かれた。
だが――
誰も手を伸ばさなかった。
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カリクスを敵にすることは、
勝つことではない。
世界を、賭けることだった。
(つづく)
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