第5話 街を広げるなら、まとめて持ってきた方が楽でした
最近、街を歩くと――
建物が足りない。
人が増えた。
店も増えた。
倉庫も増えた。
当然だ。
場所が、足りない。
「……窮屈だな」
通路で人と肩がぶつれそうになり、
俺はそう思った。
不満というより、
単純な感想だ。
(後で直すの、
絶対面倒だよな)
街の外れ。
木材の山と、
石材の束。
どれも、
足りない。
職人たちが頭を抱えている。
「石がな……」
「木は何とかなるが、
石と金属がな」
それを聞いて、
俺は思った。
(……鉱山か)
行き先は、決まった。
鉱山都市は、
街から少し離れている。
普通なら、
馬車で数日。
俺は、
転移した。
「……でかいな」
岩と鉄の匂い。
坑道の入口がいくつも並んでいる。
いかにも、
掘ってますという街だ。
監督らしき男に声をかける。
「石、
売ってもらえます?」
「量による」
「多めで」
「どれくらいだ?」
俺は、
少し考えた。
考えたが、
数字を出すのが面倒だった。
「……足りる分」
「分かるか!」
即ツッコミが入った。
坑道の中。
石。
鉄。
銅。
ところどころ、
魔導鉱石。
「……いいな」
正直な感想だ。
掘る必要はない。
切り出す必要もない。
俺は、
収納を使った。
ごそっ。
岩壁の一部が、
丸ごと消える。
ごそっ。
ごそっ。
「…………」
後ろで、
完全に音が止まった。
「……今、
何が起きた?」
「岩、
消えたよな?」
俺は振り返る。
「運ぶの、
楽ですよね」
誰も、
返事をしなかった。
街に戻ったのは、
その日の夕方。
ノアんとこの外れ。
空き地――
いや、
これから使う場所に立つ。
「ここ、
使います」
収納を開いた。
次の瞬間。
石。
石。
石。
鉄。
鉄。
地面が、
見る間に埋まっていく。
「………………」
周囲が、
完全に静まり返った。
「……これ」
誰かが、
かすれた声で言った。
「……街、
作れるぞ」
「作り直せるな」
職人たちの目が、
一気に変わった。
翌日から。
街は、
本気で動き出した。
仮設ではない建物。
恒久的な区画。
道を引き直す話。
壁を広げる話。
全部、
現実味を帯びている。
俺は、
その様子を眺めていた。
「……まとめて持ってきて、
正解だったな」
後で何度も行くのは、
面倒だ。
一回で済ませる。
それが、一番楽だ。
この日。
ノアんとこは、
**「広げる前提の街」**になった。
誰も宣言していない。
誰も許可を取っていない。
だが、
もう戻れない。
街は、
作り直され始めていた。
俺の知らないところで。
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