第49話 戦場に行かない国が、一番やりにくい
戦争が始まった。
だが――
前線は、静かだった。
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ベルグラント軍は、進んだ。
関所を押さえ、
街道を管理し、
物流を制御する。
だが、
**敵がいない。**
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「……接触は?」
「ありません」
「迎撃は?」
「ありません」
参謀の報告は、短い。
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「カリクスは?」
「動き、なし」
「抗議は?」
「ありません」
「軍の集結は?」
「確認できません」
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将軍は、黙った。
想定と、
違いすぎる。
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「……普通は」
ぽつりと、言う。
「ここで」
「軍を出すか」
「声明を出す」
「最低でも」
「怒る」
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だが、
何もない。
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一方。
ハブリス。
街は、いつも通りだった。
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「今日は、魚が多いな」
「港町経由です」
「陸路じゃなく?」
「はい」
「遠回りですが」
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市場は、動いている。
値段も、安定している。
確かに、
一部の品は遅れている。
だが――
**止まってはいない。**
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リリアが、報告を読む。
「周辺国から」
「問い合わせが増えています」
「内容は?」
「……全部、同じです」
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「カリクスは」
「どちらにつくのか」
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ノアは、
地図を見たまま答える。
「……つきません」
即答だった。
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「それを」
「どう伝えますか?」
「そのままで」
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リリアは、少し考えてから頷いた。
「……誤解されますね」
「はい」
「敵だと?」
「場合によっては」
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「……それでも?」
ノアは、肩をすくめる。
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「選ぶと」
「面倒が、増えます」
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同じ頃。
第三国ラーデン。
王と重臣たちが、頭を抱えていた。
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「カリクスは」
「中立を宣言していない」
「だが」
「敵対もしていない」
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「……では」
「どう扱えばいい?」
誰も、答えられない。
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「戦争中の国が」
「物流を止めない?」
「そんな例は、ない」
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その情報は、
前線にも届く。
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「……後方が」
「安定しすぎている」
ベルグラントの参謀が言う。
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「こちらは」
「戦時体制だ」
「物資も」
「人も」
「消耗している」
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「だが」
「カリクス圏は」
「平時だ」
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将軍は、歯を食いしばる。
「……殴れない相手ほど」
「厄介なものは、ない」
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夜。
ハブリス。
宿の部屋。
ノアは、ベッドに腰掛けていた。
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「……戦争って」
独り言。
「始まるより」
「始まった後の方が」
「面倒ですね」
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外では、
人が眠り、
灯りが揺れている。
逃げる人はいない。
怯える声もない。
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この日。
世界は、気づき始めた。
**カリクスは**
**戦争を止めに来ない。**
**だが**
**戦争を成立させもしない。**
それが、
どれほど異常で、
どれほど厄介かを。
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剣を抜かない国。
旗を掲げない国。
だが、
どこよりも戦争の中心にある国。
戦場に行かない国が、
一番、戦争を左右していた。
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