第48話 最初に越えたのは、境界線だった
ベルグラント軍が動いたのは、夜明け前だった。
宣戦布告は、ない。
檄文も、ない。
ただ――
国境線を示す杭を、一本引き抜いた。
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「……前進」
低い号令。
部隊は、静かに進む。
剣は抜かれない。
魔法も構えない。
目的は、戦闘ではなかった。
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「街道の確保」
「関所の占拠」
「物流の遮断」
命令は、明確だった。
**撃つな。壊すな。通すな。**
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最初に止められたのは、商人の馬車だった。
「……通行証を」
「昨日までは、要らなかったはずだが」
「今日からだ」
兵士の声は、淡々としている。
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「拒否する」
商人が言う。
その瞬間、兵が一歩前に出た。
「拒否は」
「通行不可と同義だ」
剣は、まだ抜かれない。
だが――
**逃げ道も、ない。**
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同じ頃。
別の街道。
別の関所。
同じやり取りが、繰り返されていた。
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ハブリス。
朝の市場。
いつもより、人が多い。
そして――
荷が、少ない。
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「……届いてないな」
「昨日の便が、来てない」
ざわめきが、広がる。
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リリアが、報告を持ってくる。
「ベルグラント軍が」
「国境線を越えました」
「正式な戦争ではありませんが」
「……事実上、封鎖です」
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ノアは、朝食のパンを手に取ったまま、止まった。
少しだけ。
本当に、少しだけ。
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「……ついに、やりましたか」
怒りはない。
驚きもない。
ただ、確認だ。
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「こちらへの直接被害は?」
「今のところ、ありません」
「人的被害も?」
「報告は、ありません」
ノアは、パンを一口かじる。
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「……なら」
「まだ、戦争じゃないですね」
その言葉に、リリアは息をのむ。
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「でも」
「もう戻れません」
そう付け加えた。
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ベルグラント軍本営。
将軍は、報告を聞いていた。
「第一線、確保」
「抵抗、なし」
「カリクス側、沈黙」
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「……やはり」
将軍は、低く笑う。
「何もしてこない」
「つまり」
「**こちらの動きは、想定内だ**」
それが、最大の誤算だった。
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その日の午後。
噂は、国境を越えた。
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> 「ベルグラント、侵攻開始」
> 「カリクスは反応せず」
> 「戦争が始まった」
事実と誤解が、混ざり合う。
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第三国ラーデン。
王は、報告書を叩いた。
「……最悪だ」
「止めに入った結果が、これか」
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夜。
ハブリス。
城壁の上。
ノアは、街の灯りを見下ろしていた。
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「……最初に越えるのは」
独り言。
「いつも、境界線ですね」
言葉は、軽い。
だが――
意味は、重い。
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この日。
剣は、まだ交わっていない。
血も、流れていない。
だが――
**戦争は、始まった。**
静かに。
確実に。
引き返せない形で。
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