第46話 踏み込まないと、引き返せなくなる
ベルグラントは、
まだ戦争をしていなかった。
だが――
準備は始めていた。
国境沿い。
以前は、
通れる道だった。
今は――
検問がある。
「止まれ」
「所属と、
積荷を申告しろ」
兵士の声は、
硬い。
商人が、
戸惑いながら答える。
「……カリクス方面です」
その瞬間、
空気が変わった。
「……別ルートを使え」
「理由は?」
「上の命令だ」
また、
それだ。
通れない理由は、
語られない。
だが
通れない事実だけが
積み上がる。
ベルグラント軍議。
「カリクスは」
「反応してこない」
将軍が言う。
「圧をかけても」
「抗議も、
譲歩もない」
「……不気味だな」
「無視されている
だけでは?」
若い参謀の声。
「違う」
将軍は、
首を振る。
「様子を見られている」
その言葉に、
全員が黙る。
「なら」
「踏み込むべきです」
誰かが、
言ってしまった。
踏み込む。
それは、
引き返せないということだ。
数日後。
ベルグラントは、
正式に布告した。
【国境管理強化】
【通行許可制への移行】
名目は、
治安維持。
だが――
対象は、
明確だった。
影響は、
すぐ出た。
「……遅れます」
「荷が、
回らない」
ハブリスの市場で、
声が上がる。
リリアが、
報告をまとめる。
「通行制限が」
「事実上、
恒常化しています」
「……ですか」
ノアは、
短く答える。
「こちらから」
「抗議は?」
リリアが、
確認する。
ノアは、
首を横に振った。
「今、
抗議すると」
「向こうの正当性が
増えます」
冷静な判断だった。
「では……」
「商人たちは?」
「困ります」
ノアは、
少しだけ考えた。
「……別ルートを
太くしましょう」
「通らない道を、
使います」
「それって……」
「面倒ですが」
「安全です」
数日後。
変化は、
静かに起きた。
ベルグラントを通らない
街道が、
使われ始める。
遠い。
だが――
止まらない。
「……あれ?」
ベルグラント側の
関所。
「……通行量、
減ってませんか?」
兵士が、
首を傾げる。
将軍の元に、
報告が上がる。
「物流が」
「想定より、
影響していません」
将軍は、
歯噛みした。
「……踏み込んだのに」
「効いていない」
それが、
最悪だった。
夜。
宿の部屋。
ノアは、
地図を見ていた。
線が、
少し変わっただけ。
「……踏み込むと」
独り言。
「戻るのが、
面倒になるんですよ」
だから、
最初から
踏み込まない。
この日。
ベルグラントは、
一線を越えた。
戦争ではない。
だが――
後戻りも、
できなくなった。
カリクスは、
まだ動かない。
動かないからこそ、
次の一手は
世界が選ぶことになる。
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