第43話 助けない理由は、面倒だからだ
今度は、
正式だった。
封蝋付きの書簡。
使者同行。
礼儀も、
言葉も、
完璧だ。
誰が見ても、
**「ちゃんとした依頼」**だった。
「……来ましたか」
ノアは、
ため息をつく。
「来ましたね」
リリアも、
分かっていた。
遅かれ早かれ、
こうなる。
応接室。
円卓。
空気は、
重すぎない。
だが――
軽くもない。
「我々は」
使者が、
深く頭を下げる。
「以前、
視察に伺った街の代表です」
「現在」
「街の再編にあたり」
「助言、
もしくは
支援をお願いしたく」
言葉は、
丁寧だった。
「条件は?」
ノアが、
短く聞く。
「資金は用意します」
「人も出します」
「責任も、
こちらで負います」
「記録も残しません」
誠実だ。
かなり。
リリアが、
一瞬だけノアを見る。
(今回は、
悪くない条件です)
そう言いたげだった。
ノアは、
少しだけ考えた。
本当に、
少しだけ。
「……断ります」
静かな声だった。
使者が、
固まる。
「……理由を
お聞かせ願えますか?」
怒ってはいない。
困っている。
ノアは、
正直に答えた。
「俺が行くと」
「あなた達の街は
俺の街になります」
その場が、
静まり返る。
「……支配する、
という意味では」
「ありません」
「でも」
「判断が、
俺基準になります」
「それは」
「あとで、
必ず
面倒になります」
使者は、
唇を噛んだ。
「……それでも」
「今は、
困っているのです」
「はい」
ノアは、
頷いた。
「だから」
「自分たちで
困ってください」
冷たくはない。
突き放してもいない。
ただ、
譲らなかった。
「失敗しても?」
「します」
「時間が
かかっても?」
「かかります」
「それでも?」
「それでもです」
ノアの声は、
変わらない。
「俺が
一回助けると」
「次も、
俺になります」
「それが」
「一番、
面倒です」
沈黙。
長い。
やがて、
使者が頭を下げた。
「……理解、
しました」
嘘ではない。
納得はしていない。
だが、
理解はした。
「最後に」
使者が、
顔を上げる。
「我々は」
「カリクスに
失望すべきでしょうか」
ノアは、
即答した。
「いいえ」
「期待しすぎただけです」
それだけだった。
使者は、
何も言わずに
立ち去った。
その後。
街では、
何も起きなかった。
怒りも、
非難も、
宣戦布告も。
ただ――
噂だけが残った。
「カリクスは、
助けない」
「だが、
邪魔もしない」
夜。
宿の部屋。
ノアは、
ベッドに座る。
「……助けないのも」
独り言。
「結構、
体力使うな」
リリアが、
静かに言った。
「……それでも」
「間違ってないと、
思います」
「でしょうね」
ノアは、
横になりながら言う。
「間違ってたら」
「もっと、
面倒になってます」
この日。
カリクスは、
“頼れない存在”として
認識された。
それは、
信用を失うことではない。
依存されない、
という意味だ。
ノアは、
それで満足だった。
依存は、
面倒だからだ。
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