第3話 気づいたら、街が工事中でした
朝、外がやけに騒がしかった。
「……うるさいな」
窓を開けると、
音の種類が昨日と違う。
人の声だけじゃない。
木を叩く音。
何かを運ぶ音。
(……工事?)
宿を出た瞬間、違和感が確信に変わった。
街の中央に、
木組みの倉庫ができている。
昨日まで、
空き地だったはずの場所だ。
「……いつの間に?」
しかも一つじゃない。
もう一つ、
その隣にも。
「おはようございます!」
昨日より明らかに元気な声で、
宿の主人が挨拶してきた。
「今日はずいぶん騒がしいですね」
「ええ!
素材が多いもので!」
「……素材?」
「昨日のですよ!
肉も皮も骨も魔石も!」
主人は、
誇らしげに街の中央を指差す。
「解体場だけじゃ足りなくて、
倉庫を急ごしらえしたんです」
(……判断早いな)
街を歩く。
露店が増えている。
いや、
場所が整理され始めている。
「肉はこっちだ!」
「革は中央倉庫に回せ!」
「通路空けろー!」
誰かが号令をかけているわけでもないのに、
自然と流れができている。
(……慣れてきてる)
昨日の混乱が、
もう“作業”になっていた。
ギルド前。
掲示板が、
新しい木枠に付け替えられていた。
「……これも?」
「ええ」
受付の女性が、
少し誇らしげに答える。
「依頼が増えて、
紙が足りなくなりまして」
「紙も?」
「素材が増えると、
仕事も増えるんです」
なるほど。
連鎖だ。
昼。
街の端で、
道に杭が打たれていた。
「何してるんですか?」
「通路の基準決めだ」
年配の男が答える。
「今のうちに揃えとかないと、
後で面倒になる」
(……分かる)
後で直すのは、
確かに面倒だ。
気づけば、
道がまっすぐになり始めている。
午後。
倉庫の前で、
見覚えのない男が帳面を持っていた。
「……?」
「素材の入出庫を整理してます」
「誰に頼まれたんですか?」
「誰にも」
即答だった。
「必要だったので」
(……この街、
判断が早いな)
夕方。
露店の数が、
さらに増えていた。
簡易食堂。
革細工。
防具の下地。
人の流れが、
昨日よりはっきりしている。
「……完全に、
昨日とは別の街だな」
まだ小さい。
だが、
動いている街だ。
夜。
宿で食事をしていると、
隣の席から声が聞こえた。
「最近さ、
あの冒険者のおかげだろ」
「昨日来たやつ?」
「そうそう。
ノアって言ったか」
「……ノアのいる街、
って感じだよな」
別の男が笑う。
「ノアんとこ、
って呼べばよくね?」
「それ、分かりやすいな!」
笑い声。
俺は、
スープを飲みながら考えた。
(……名前、
勝手につくんだな)
止める理由もない。
面倒だ。
この日。
街はまだ、
正式な名前を変えていない。
だが人々の中で、
ひとつの呼び名が
静かに定着し始めていた。
「ノアんとこ」
俺が何かしたわけじゃない。
ただ、
楽をしただけだ。
それだけで街が動くなら、
まあ――悪くない。
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