第28話 教会は、これは想定外だと思った
大神殿の奥。
静かな会議室に、
数人の司祭が集まっていた。
全員、顔が硬い。
「……ハブリスの件ですが」
若い司祭が、
報告書を広げる。
「城壁は、
防衛目的ではありません」
「武装の増強も、
見られません」
「指導者も、
依然として不在です」
年配の司祭が、
眉をひそめた。
「……では、
なぜ安定している?」
「それが」
若い司祭は、
少し困った顔をする。
「争いが、
自然に減っています」
「……?」
「規則が厳しいわけではありません」
「罰も、
強くありません」
「ただ」
一拍置いて。
「面倒なことが
増えない仕組みになっています」
室内が、
静まり返った。
「奇跡ではない」
別の司祭が言う。
「だが、
神の導きとも言い切れない」
「人の手で、
ここまで?」
誰も、
即答できなかった。
「問題は」
年配の司祭が、
低く言った。
「信仰が中心にないことだ」
「人々は」
「祈る前に、
街に相談している」
それは、
教会にとって
非常に珍しい事態だった。
「敵対する?」
誰かが聞く。
即座に、
否定が返る。
「理由がない」
「害がない」
「むしろ、
人は救われている」
沈黙。
「では、
取り込む?」
また沈黙。
「……難しい」
「象徴がいない」
「教義を当てはめられない」
司祭たちは、
ゆっくり理解し始めた。
「これは」
年配の司祭が、
静かに言った。
「管理できない善意だ」
「……想定外だな」
全員が、
同意した。
一方。
ハブリス。
ノアは、
市場で焼き串を食っていた。
「……最近」
独り言。
「街、
落ち着いてるな」
悩みは、
特にない。
「ノアさん」
リリアが、
横に立つ。
「教会の方で」
「何かありました?」
「……判断が、
割れているようです」
「そうですか」
それだけだった。
「怖くないですか?」
リリアが聞く。
「何が?」
「教会です」
ノアは、
少し考えた。
本当に、
少しだけ。
「……怖いのは」
「管理されることですね」
「今は」
「されてないので」
それで、
十分だ。
その夜。
大神殿では、
結論が出なかった。
攻撃もしない。
保護もしない。
導きもしない。
ただ――
触れない。
この日。
教会は、
ハブリスを
「例外」として
記録した。
敵でもない。
味方でもない。
ただ、
教義の外側に
存在する街。
それは、
教会にとって
初めての経験だった。
そして。
ノアは、
そのことを
まったく知らない。
焼き串が、
うまかったからだ。
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