第26話 城壁を見に来たのは、敵じゃなかった
最初に気づいたのは、門番だった。
「……馬車?」
しかも一台や二台じゃない。
列だ。
城壁の外。
新しく伸びた区画の前で、
十数台の馬車が止まっていた。
旗は――
どこの国のものでもない。
(ああ、
これは一番面倒なやつだ)
「視察です」
代表らしき男が、
あっさり言った。
「敵意はありません」
「武装も最低限です」
確かに、
剣は腰にあるが、
抜く気配はない。
「……誰に会いに?」
門番が聞く。
「街を作った人に」
「……何人かいますが」
「一番、
作る気がなさそうな人です」
(特定されてるな)
ギルド。
ノアは、
椅子に深く座っていた。
「……城壁、
見に来ただけ?」
「はい」
リリアが頷く。
「測ってます」
「測る?」
「厚み、
魔力耐性、
組み方」
(完全に職人目線だな)
応接スペース。
視察団の代表が、
素直に言った。
「いや、
感動しました」
「……は?」
「この城壁」
男は、
手を伸ばす。
「削っていない」
「積んでいるだけ」
「だが、
耐久が異常です」
ノアは、
少しだけ誇らしくなった。
少しだけだ。
「目的は?」
ノアが聞く。
代表は、
即答した。
「学びたい」
「……は?」
「技術を盗むとか」
「支配するとか」
「そういうのではない」
珍しいタイプだ。
「この街」
代表は続ける。
「無理をしていない」
「だから、
壊れない」
「それが、
一番難しい」
ノアは、
思わず笑った。
「……分かります?」
「分かります」
即答だった。
「条件は?」
ノアが聞く。
代表は、
少し考えてから言った。
「干渉しない」
「口出ししない」
「管理しない」
「ただ」
一拍置いて。
「出入りはさせてほしい」
ノアは、
リリアを見る。
リリアは、
少し考えて頷いた。
「問題ありません」
バルドも、
帳面を閉じる。
「数字的にも、
悪くない」
「……楽そうですね」
ノアの結論だった。
「許可します」
代表は、
深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
その日から。
城壁を見に来る人が、
少しずつ増えた。
敵ではない。
侵略者でもない。
学びに来る人間だ。
街は、
さらに広がった。
だが、
形は変わらない。
碁盤目。
分散。
放置。
夜。
城壁の上。
ノアは、
風に当たっていた。
「……街って」
独り言。
「勝手に
育つもんなんだな」
自分は、
素材を持ってきただけだ。
作りたいとは、
思っていない。
リリアが、
隣に来る。
「ハブリス、
有名になりましたね」
「……ですね」
「正式名称、
そろそろ?」
ノアは、
少し考えた。
本当に、
少しだけ。
「まだ」
「今は」
「ノアんとこで
いいです」
それが、
一番楽だから。
この日。
ハブリスは、
真似される街になった。
奪われるのではない。
学ばれる。
それは――
もう一段、
上の段階だ。
ノアは、
その意味を
まだ深く考えていない。
考えるのは、
面倒だからだ。
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