第20話 善意は、だいたい面倒だ
ハブリスに、
教会の人間が来た。
武装はない。
威圧もない。
むしろ、丁寧だ。
だからこそ――
ノアは嫌な予感がした。
(これ、
逃げられないやつだ)
場所は、
ギルドの奥の会議室。
円卓。
お茶。
穏やかな空気。
完璧に、
話し合いの場だ。
「まず」
白衣の司祭が、
静かに口を開いた。
「我々は、
敵意を持って
来たわけではありません」
「でしょうね」
ノアは即答した。
「敵意があったら、
もっと楽でした」
司祭は、
苦笑した。
「ハブリスは」
司祭は、
手元の書類を見ながら言う。
「急速に成長しています」
「人が集まり」
「物が集まり」
「奇跡と呼ばれる
現象が起きている」
「……奇跡、
ですか」
ノアは、
少しだけ顔をしかめた。
「我々は」
司祭は続ける。
「それを否定しません」
「神の名を使って
いないことも
承知しています」
(そこ、
ちゃんと見てるんだな)
「ですが」
司祭の声が、
ほんの少しだけ硬くなる。
「責任の所在が
見えません」
来た。
(それだ)
「奇跡が起きた時」
「問題が起きた時」
「誰が、
人々を守るのか」
司祭の言葉は、
全部正しい。
だからこそ、
反論しづらい。
「……守られてますよ」
ノアは言った。
「実際」
「治安は安定しています」
「飢えもありません」
「争いも減りました」
事実だ。
「ええ」
司祭は頷いた。
「今は」
その一言が、
刺さった。
「教会は」
司祭は、
祈るように指を組む。
「人が集まる場所を
放置できません」
「それは、
過去に
多くの悲劇を
生んできました」
その言葉には、
重みがあった。
「だから」
「提案です」
司祭は、
はっきりと言った。
「教会の管理下に
置くつもりはありません」
「ただ」
「指針を」
「象徴を」
「相談先を」
「設けてほしい」
静かだ。
誰も、
反論しない。
全員、
分かっている。
善意だ。
ノアは、
深く息を吐いた。
「……それ」
「俺がやると
思ってます?」
司祭は、
視線を逸らさなかった。
「候補の一人として」
(やっぱり)
「俺は」
ノアは、
ゆっくり言った。
「楽な方を
選びます」
「人を守る、
というのは」
「一番、
楽じゃない」
正直すぎる。
「ですが」
司祭は、
声を荒げない。
「あなたが
“選ばれてしまっている”」
「それも、
事実です」
ノアは、
何も言えなかった。
沈黙。
長い。
リリアが、
視線を落とす。
バルドが、
腕を組む。
結局。
その日は、
何も決まらなかった。
教会は、
押し付けなかった。
ノアも、
拒絶しなかった。
ただ――
宿題だけが
置いていかれた。
夜。
宿の部屋。
ノアは、
ベッドに倒れ込む。
「……善意って」
天井を見る。
「逃げにくいから、
面倒なんだよな」
怒鳴られた方が、
まだ楽だった。
この日。
ハブリスは、
教会に否定されなかった。
だが同時に、
見守られる街になった。
それは、
祝福ではない。
期待だ。
そして期待は、
ノアにとって
一番、
重い。
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