第19話 誰に話を通せばいいのか分からないらしい
ある日。
ハブリスの門に、
やけに整った一団が現れた。
人数は少ない。
武装も控えめ。
だが――
全員、姿勢がいい。
(ああ、
国の人だ)
「こちらが、
ハブリスでよろしいか」
「はい」
門番が答える。
「代表者に
取り次いでほしい」
「……どの代表でしょう」
使者が、
一瞬固まった。
「……代表だ」
「一人、
という意味で?」
「そうだ」
門番は、
少し考えた。
「……いません」
沈黙。
使者は、
顔をしかめた。
「ふざけているのか?」
「本当です」
「では、
責任者は?」
「分かれています」
「……?」
結局。
使者は、
ギルドに案内された。
リリア、
バルド、
冒険者代表、
商人代表。
全員が揃う。
揃いすぎている。
「誰が、
最終判断を?」
使者が聞く。
「状況によります」
リリアが答える。
「治安は治安代表」
「商業は商業代表」
「冒険者は冒険者代表」
「では、
街全体は?」
「……全体?」
全員が、
一瞬考えた。
沈黙。
使者は、
明らかに困惑している。
「……王国としては」
「税」
「条約」
「保護」
「徴兵」
「誰と話せばいい?」
それは、
もっともな質問だ。
その時。
「……俺ですか?」
後ろから、
ノアの声がした。
(来た)
「あなたが、
ノア殿?」
「はい」
「この街の代表か?」
「違います」
即答。
空気が、
凍る。
「だが、
皆があなたを見る」
「困った時だけです」
「それが、
代表では?」
「違います」
ノアは、
はっきり言った。
「俺は」
ノアは、
指で机を軽く叩く。
「楽な方を選ぶ人間です」
「責任を
引き受ける気は
ありません」
「引き受けたら、
全部俺に来る」
「それは、
面倒です」
使者は、
頭を抱えた。
「……前例がない」
「でしょうね」
「だが、
街は存在している」
「はい」
「税をどうする」
「決めてません」
「法は?」
「最低限です」
「……」
バルドが、
静かに口を開いた。
「王国が望むのは、
管理できる相手でしょう」
「その通りだ」
「ですが」
バルドは、
帳面を閉じる。
「ここは、
管理しない方が
回る街です」
使者は、
深く息を吐いた。
「……上に、
どう報告すればいい」
ノアは、
即答した。
「面倒な街、
と」
リリアが、
思わず口を押さえた。
沈黙の後。
使者は、
苦笑した。
「……正直だな」
「楽なので」
結論は、
その日は出なかった。
条約も、
税も、
徴兵も。
すべて、
保留。
夜。
宿の部屋。
ノアは、
ベッドに倒れ込む。
「……国の人まで
困らせるとは」
だが。
押し切られなかった。
縛られなかった。
それだけで、
十分だ。
この日。
王国は、
ハブリスを
「扱いづらいが、
無視もできない街」
として認識した。
誰が代表か分からない。
命令が通らない。
だが、
問題も起こしていない。
最悪だ。
――制度側から見れば。
ノアは、
それを知らずに眠った。
面倒なことが、
一つ先送りされたからだ。
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