第18話 代表を決めろって言われても困ります
朝。
掲示板の前に、人だかりができていた。
内容は――
治安隊の連絡先について。
「……連絡先?」
ノアは、嫌な予感しかしなかった。
「夜の見回り、
助かってます!」
「でも、
責任者は誰なんだ?」
「何かあった時、
誰に言えばいい?」
もっともな意見だ。
正しすぎて、反論しづらい。
(これ、
一番面倒なやつだ)
ギルドの奥。
リリアとバルド、
それから見回り役の冒険者が集まっていた。
「治安は、
落ち着きました」
「はい」
「でも」
リリアが、
はっきり言う。
「代表が必要です」
(来た)
「誰が責任を取るのか」
「決定権はどこか」
「問題が起きたら、
誰が判断するのか」
言っていることは、
全部正しい。
正しすぎる。
「……俺ですか?」
ノアが聞く。
全員が、
少し困った顔をした。
「できれば……」
「一応……」
「象徴的に……」
(最悪だ)
ノアは、
椅子に深くもたれた。
「代表になると」
指を折って数える。
「話を聞く必要がある」
「説明を求められる」
「責任を押し付けられる」
「……面倒です」
即断だった。
「じゃあ、
どうします?」
リリアが聞く。
ノアは、
少しだけ考えた。
本当に、
少しだけ。
「……代表、
作らなければ
いいんじゃないですか」
「……え?」
「一人にすると、
全部集まります」
「面倒が」
「だから」
ノアは、
淡々と言った。
「分けましょう」
バルドが、
眉を上げる。
「……分ける?」
「はい」
「どうやって?」
「役割ごとに」
それだけだ。
「治安は、
見回り役の代表」
「商業は、
商人側」
「冒険者は、
冒険者代表」
「街の調整は、
リリア」
指を折りながら言う。
「……では」
リリアが、
恐る恐る聞く。
「ノアさんは?」
「俺は」
ノアは、
一拍置いてから言った。
「困った時の最終手段で」
沈黙。
次に、
バルドが笑った。
「……一番、
逃げ道がない位置ですね」
「でも、
普段は何もしない」
「……確かに」
「書類は?」
「最小限で」
「会議は?」
「必要な時だけ」
「定期報告は?」
「……しなくていいです」
ノアの顔は、
本気だった。
結果。
代表は作られなかった。
代わりに、
治安代表
商業代表
冒険者代表
調整役
が並ぶ、
分散型の運営が始まった。
誰もトップじゃない。
だから、
誰も全部を背負わない。
夕方。
街は、
特に変わらない。
だが、
揉め事は減っていた。
連絡先が、
明確になったからだ。
夜。
宿の部屋。
ノアは、
ベッドに倒れ込む。
「……代表に
ならなくて済んだ」
それだけで、
今日は勝ちだ。
この日。
ハブリスは、
トップのいない街になった。
外から見れば、
理解不能。
だが内側では、
これが一番、
回りやすかった。
そして――
この仕組みこそが。
後に、
国や教会を
一番悩ませることになる。
ノアは、
まだそれを知らない。
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