第10話 物流は楽じゃないらしい
魚は届いた。
だが――
全部が無事、というわけではなかった。
朝。
市場の一角が、少しだけ騒がしい。
「……臭うな」
「この箱だ」
「昨日は大丈夫だったのに……」
人だかりの中心に、
保冷箱がいくつか置かれていた。
蓋が半開きで、
中の魚は――
正直、売り物にならない。
(……あー)
ノアは、少し離れたところからそれを見た。
(こういうの、
出るよな)
リリアとバルドが、
すでに現場にいた。
「原因は?」
ノアが聞くと、
リリアは即答した。
「護衛の交代が遅れました」
「馬車が一台、
予定より半日遅れて」
「保冷魔石の交換も、
間に合わず」
どれも、
致命的ではない。
だが、
積み重なるとこうなる。
商人が、
少し苛立った声を上げる。
「これじゃ、
信用に関わるぞ」
「全部がこうじゃない!」
「でも、
“一部腐る”って話は
聞いてない!」
(あー……
揉め始めたな)
ノアは、
少しだけ前に出た。
「全部、
生きたまま届くと思ってました?」
場が静まる。
商人が、
戸惑った顔をする。
「……え?」
「内陸ですよ」
ノアは、
淡々と言った。
「距離もある。
人も関わる。
魔石も消耗する」
事実を並べただけだ。
「毎回完璧、
って前提は」
ノアは、
少し考えてから言った。
「……面倒です」
リリアが、
小さく息を吐いた。
バルドが、
頷いた。
「成功率は?」
ノアが聞く。
「九割ほどです」
「十分ですね」
即答だった。
「一割ダメでも、
九割回るなら
仕組みとしては合格です」
商人たちが、
顔を見合わせる。
「……いいのか?」
「いいです」
ノアは、
あっさり言った。
「全部完璧にしようとすると」
ノアは続ける。
「確認が増えます」
「手間が増えます」
「責任の所在を
決める話になります」
それは、
確実に面倒だ。
バルドが、
帳面を開いた。
「では、
“損耗込み”で
計算を引き直します」
「価格も?」
「はい」
「保険的な扱いも?」
「検討します」
話が、
前向きに進み始める。
商人の一人が、
苦笑した。
「……思ったより、
割り切ってるな」
「楽なので」
ノアの答えは、
それだけだ。
昼過ぎ。
問題の魚は、
加工用に回された。
塩。
干物。
肥料。
無駄にはならない。
(……まあ、
こうなるよな)
夕方。
市場は、
いつも通り賑わっていた。
魚は少し減ったが、
人は減っていない。
誰も、
今日のトラブルを
大事にはしていない。
宿の部屋。
ベッドに腰を下ろし、
ノアは呟いた。
「……完璧じゃない方が、
長続きするんだよな」
全部を守ろうとすると、
疲れる。
少し壊れる前提の方が、
楽だ。
それは、
街も同じらしい。
この日。
ノアんとこの物流は、
“理想”から“現実”になった。
少し不完全で、
少し雑で、
でも――
回る。
それが一番、
面倒が少ない。
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