第四話 ヴァニタスについて事情聴取します
自分から勉強しようとは絶対に言わないメルリがそんな事を言うなんて……。
「……熱でもあるのかな?」
私が呟くと、メルリは私をジトッとした目で見る。
「失礼だなぁ。私だって真面目に勉強するときはするよ?」
「いや、でもあのメルリが自分から練習しようなんて……。明らかにおかしいじゃねぇか・リディール様の言うことが正しい」
オスカーも驚いた顔をしている。
メルリはため息をついて、呆れたような顔をした。
「だって、リディール様がいつも壁に穴開けてるの見てたら私も魔力制御ちゃんとしないとなって思うじゃん?」
「それ、完全に私が反面教師にされてるよね?」
「まあ、そうとも言うね」
「酷ぉい……」
私は肩を落とした。
「反面教師になるようなことばかりしている自分を恨むことね」
「あ、セレーネおはよう」
メルリが登校してきたセレーネにそう言うと、セレーネは少し眉をひそめた。
そして、席に荷物を置くなり口を開いた。
「メルリとオスカーってリディールのことは様つけるのに、私には様つけたことないわよね?」
「そうだっけ?」
「そうよ。あと、リディール樣はリディール様で私のこといつの間にか呼び捨てだったわよね?」
「そ、そーだね」
やばい、セレーネが何をしてほしいのか分からない。
私達が首を傾げて話を聞いていると、セレーネは少し声を荒げた。
「つ、つまり!私もみ、みんなを呼び捨てにしたいのよ!」
「なに?ツンデらないと死ぬの?」
「ツンデるって何よ!」
セレーネが顔を真っ赤にして言った。
ツンデるはツンデレ行動をすることに決まっているではないか。
「いや、だってセレーネのその反応、完全にツンデレじゃん」
メルリがニヤニヤしながら言う。
それには私もオスカーも激しく同意する。
「違う!私はただみんなと対等に話したいだけよ!勘違いしないでよね!」
セレーネは頬を膨らませた。
はいきたー!
ツンデレの名言!
――勘違いしないでよね!
これを素面で言う人がいるのには驚きだけど、死ぬ前に見れてよかった!
「じゃあ、これからはみんな呼び捨てでいいってことだね」
「え、ええ……そうよ」
セレーヌは少し恥ずかしそうに頷いた。
「じゃあ私も敬称なしでいいよ」
私が言うと、みんなは頷いた。
「あ、そうだセレーネ!午後から一緒に魔法の練習しない?」
メルリは本当に切り替えが早いよね……。
セレーネは笑顔で頷いた。
「やったー!じゃあ今日の放課後は練習だー!!」
「あ、ちょっと待って」
なんか用事があったような……。
お父様にお願いされた大事な用事が……。
――彼女からヴァニタスについて詳しく聞かなければならない。それはお前にお願いしたい
「あ、めっちゃ大事な用事あるわ」
「もしかして、そんな用事を忘れてたの?」
みんなが信じられないという目を私に向ける。
ここは素直に言おう。
「ガッツリ忘れてた☆」
「「「アホー!!」」」
「あははははー」
いや、笑い事じゃないわ。
お父様に忘れたなんて知られたら……。
ギロチン持ち出されて首を切られかねない。
私は椅子を蹴らんばかりの勢いで立ち上がった。
実際、お父様はヴァニタスの件に関してはいつになくピリついている。
そりゃそうだ。
自分の娘が通う学園にテロ組織のメンバーが潜伏してて、あまつさえ精霊の力を吸い取るなんていう禁呪をぶっ放してたんだから。
「あーあ、せっかくセレーネがデレた記念すべき日だったのに」
「デレてないって言ってるでしょ!……まあ、大事な用事なら仕方ないわね」
セレーネは顔を背けながらも、どこか寂しそうに手を振った。
うう、可愛い。
これが本物のツンデレの波動か。
「ごめんね、みんな。この埋め合わせは絶対にするから!美味しいスイーツとか、王宮秘伝のレシピで作ったクッキーとか持ってくるから!」
「お、言ったな?期待してるぜ、リディール?」
「私は新作の魔導具の試作品がいいな〜」
オスカーとメルリの現金な返事を聞いて、苦笑いをした。
◇◆◇
――王宮魔導師団の塔
入り口では案の定というか何というか、仏頂面のアルデーヌが立っていた。
今日、アルデーヌは午前に予定があって、学校には来ていなかった。
午後は空いているとお父様に言われたから、一緒に事情聴取をすることにしたんだよね。
「ごめん、アルデーヌ。おまたせ」
「……遅いですよ、リディール様」
「ちょっと道が混んでて……」
アルデーヌは「そうですか」とだけ言って、私を事情聴取する部屋に連れて行った。
扉を開けるとそこには、刺々しさが完全に取れたペルセポネが窓の外を眺めて座っていた。
「……祝福の日ぶり、リディール」
「そうだね。体調はどう?」
「悪くないかな」
私は彼女の向かい側に座った。
アルデーヌは部屋の隅にある椅子に、クリップボードのようなものを持って腰を下ろした。
「ペルセポネ、国王陛下からあなたにヴァニタスについて詳しく聞くように言われてるの。彼らが次に何を狙っているのか、そして『ボス』が誰なのか、教えてくれる?」
その言葉を聞いた瞬間、ペルセポネの肩が微かに震えた。
彼女は視線を落とし、絞り出すような声で言った。
「ボスの姿を見た者はいないわ。指示はいつも影を通じて、あるいは特殊な魔導具を通して下されていたわ」
ペルセポネの話によれば、ヴァニタスには彼女のような「精霊に愛されなかった天才」だけでなく、逆に
「精霊に全てを奪われた者」も所属しているらしい。
ただ、かなり精霊を憎んでないとボスにスカウトされないらしく、メンバーはペルセポネを含めても四人しかいなかったらしい。
「セティルド様についても何か知ってる?」
「あいつはあたしのペアだったわ。入ると同時にペアを決められるの。セティルド以外の二人とはあたしはあんまり関わってないから当てにしないで」
セティルド様がペルセポネのペアだったとは。
「ヴァニタスは少数精鋭主義だから、メンバーひとりひとりの能力を最大限に引き出すために、相性の良い者同士をペアにするの。でも、あいつの魔法はあたしも見たことがない」
うーん、セレーネとかの話を聞く限り、人生最大の嘘をついているとかはないと思うんだけど……。
セティルド・エル・シシュナ。
謎が多い人物だ。
「……セティルド様はヴァニタスの思想に賛同していたの?」
「さあね。彼はいつも何を考えているのか分からなかった。ただ、精霊の力を否定するヴァニタスの思想には、どこか共感しているようにも見えた」
共感……か。
ペルセポネのように愛されていなかったわけじゃない。
だとしたらどうして……?
「家族との間に何かあったのかな……」
私の呟きは誰の耳にも止まらず、空気に溶けていった。
ヴァニタスには何かしらの傷を抱えた人が集まっている……か。
「ヴァニタスはどこで集会みたいなことをしてるの?廃城とか?」
「ある意味間違いではないわ。ヴァニタスは廃城を魔法でもう一つ複製したものを拠点としている」
あー、コピーみたいなものか。
「なら、そこに案内してくれる?」
「不可能よ」
ペルセポネは食い気味に答えた。




