第三話 他国の王太子の身柄確保を命じられました
「なに?アストライアが裏切っただと?貴様はなぜそれを止めなかった!」
「分かりきっていたではありませんか。アストライアはいつか裏切ると」
「なに?」
「我々ヴァニタスにいるのは喪失感を抱いたものばかり。私自身もそうであり、他のメンバーの二人もそうではありませんか」
「…………」
「与えられれば、あなた様に与えてもらった仮初の居場所は必要なくなる。アストライアがその一人でしょう」
「…………殺せ」
「…………」
「アストライア・カエルムを殺せ!」
「本当によろしいのですか?彼女は失っていた居場所を取り戻し、ヴァニタスを去るだけ。元ある場所に戻るのは当然かと」
「黙れ。我々は喪失を抱えた者達の集まりだ。奪われた者に、仮初の居場所を与え、生きる理由を与える。それがヴァニタスだ」
「ええ。でも、だからこそです。アストライアは、与えられなくても生きられる場所を見つけた。それは、ヴァニタスの敗北ではない。役目を終えた、というだけです」
「……貴様、まさか同情しているのか?」
「いいえ」
「……なら殺せ」
「…………」
「見せしめだ。選び直そうとした者の末路を他の者に刻みつける」
「……承知しました」
「ただし、失敗した場合、次は貴様自身だ」
「……光栄です」
◇◆◇
王宮に戻ると、アルデーヌが待っていた。
「リディール様!どこに行っていたんですか!」
「ちょっと息抜きに村まで」
「息抜き!?お一人で行くなんて危険です!」
アルデーヌは本気で怒っている。
「ごめん。でも、リュミエールとクソカスがいたから大丈夫だったよ」
「まあ、無事でよかったです。それより国王陛下がお呼びです」
「お父様が?」
「はい。執務室に来てほしいとのことです」
私はアルデーヌと一緒にお父様の執務室に向かった。
◇◆◇
執務室の扉をノックすると、中から返事が返ってきた。
「入れ」
扉を開けると、お父様が机に向かって書類を整理していた。
本当に、この七年間で執務室に来ること増えたよね……。
「お父様、お呼びですか?」
「ああ、リディール。少し話がある。ペルセポネ・カエルムの件だが……」
「……はい」
私は少し緊張した。
まさか、ペルセポネを罰するつもりなのだろうか。
「罰はお前が与えたものだけで構わないな?」
「え?あ、はい」
思ってもなかった言葉に、私は少し動揺してしまった。
罰の話でないのなら、一体何の話なんだろう。
「彼女はヴァニタスからすれば裏切り者だ」
「そうですね」
「だから、ヴァニタスは彼女を裏切り者として狙うかもしれない」
「セティルド様が似たようなことを言っていました」
――ヴァニタスは慈悲団体ではない。お前が裏切ったとなれば、きっとボスは俺にお前を殺すように命令するさ
つまりは、セティルド様がペルセポネを狙って現れる可能性があるということ。
「カエルム家の警備は徹底する。それと、彼女からヴァニタスについて詳しく聞かなければならない。それはお前にお願いしたい」
「分かりました」
たぶん、知らない人に質問攻めされるより、私に質問攻めされたほうがいいと判断したんだろう。
お父様は優しく微笑んでから、再び厳しい顔つきになった。
「それと、もう一つ。セティルド王子の件だが、シシュナ王国から正式な連絡があった」
お父様は一枚の書状を私に渡した。
私はそれに目を落とす。
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メッチャツオイ王国国王陛下へ
我が国第二王子セティルド・エル・シシュナが貴国にて不穏な行動をしていると報告を受けました。
誠に遺憾ではございますが、セティルドはテロ組織ヴァニタスに所属している可能性があります。
つきましては、セティルドの身柄確保にご協力いただきたく存じます。
シシュナ王国国王 ファルディオ・ジン・シシュナ
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「……シシュナ王国も動いたんですね」
「ああ。セティルド王子の影を殺害した件が決定打だったようだ」
お父様は深刻な顔をした。
「だが、問題はセティルド王子の居場所が分からないことだ」
「…………」
「学園にも潜伏していないし、城下にもいない。一体どこに隠れているのか……」
お父様は頭を抱えた。
私も考え込んだ。
「それらしい人を見つけたら直ちに捕縛せよ」
「はい」
◇◆◇
――数日後
「リディール様〜!しっかりと休めた〜??」
「祝福の日以来だなー!」
魔法学園に三日ぶりに登校すると、メルリとオスカーが教室で手を振って出迎えてくれた。
三連休、二人は充実した日々を送ったようだ。
私もだけど。
「再生の日が休みだったの忘れててさー。私、学園に登校して来ちゃったんだよね〜」
二人がさっきから言ってる「祝福の日」や「再生の日」はこの世界の曜日のようなものだ。
再生の日:月曜日
審問の日:火曜日
断罪の日:水曜日
祈念の日:木曜日
祝福の日:金曜日
終焉の日:土曜日
黙示の日:日曜日
一見すると、ただの厨二病じみた曜日名にしか見えないだろう。
しかし蓋を開けてみれば、その由来はいずれも本当にどうしようもない理由ばかりだ。
再生の日は「新たな始まりの日」という意味を持つ。
同時に、それは地獄の始まりをも意味している。
休み明けだからである。
審問の日は、テストや上官によるチェックが行われることが多いため、そう呼ばれるようになった。
断罪の日は週の中間にあたり、気の緩んだ者たちを断罪するかのように大量の提出課題や書類が課される日だ。
ちなみに期限はだいたい短い。
祈念の日は祝福の日の前日にあたる。
夜更かしをする者や、終焉の日と勘違いして寝坊する者が後を絶たないため、「遅刻しないことを祈る日」として定着した。
祝福の日は、その名に反して祝福される日ではない。
現実は残業祭りである。
せめて名前だけでもキラキラしていた方がいい、という理由で名付けられたらしい。
終焉の日は、断罪の日に出された課題を終わらせなければならない日だ。
休みたくても休めない。
命の灯火が消えかけるような地獄を見る者も少なくない。
黙示の日は真の意味では休みの日である。
ただし、明日から次週が始まるという事実を、黙って受け入れるための日でもあった。
「今日は午前だけの授業だし、毎週審問の日は王宮の練習場も解放されてるよね?」
「そうだね。それがどうかしたの?」
「一緒に魔法のコントロール練習しない?」
「「えっ?」」
メルリの提案に、私とオスカーは耳を疑った。




