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第九話  転生先に悲しい過去を持つ人がいました

学校に電話をして、何が原因かを調査してもらった。

一週間後、原因が分かったとき、死にたくなった。

原因は私だった。

あの日の出来事を、クラスの噂好きで、人をイジるのが好きな人に聞かれていたらしい。

りりあはその人に私に「家族じゃない」と言われたことを再三バカにされ、引きこもってしまったのだ。

あの日、私がちゃんとりりあと冷静に話せていれば。

そう思わなかった日はない。

何度もりりあに扉越しで声をかけたりしたけど、全部無駄だった。

部屋の前においたご飯はちゃんと食べてくれるし、私がいないときに少し出かけたりもしているみたいだし、自由にやらせることにしていた。

でも、ある時りりあの部屋から倒れる音が聞こえた。

放って置いてはいけない気がして、私は救急隊を呼び、扉を開けてもらった。

そこには倒れているりりあがいた。

りりあは病院に運ばれ、精密検査を受けた。


「お嬢さんは、今のところ解明されていない病気になっています」

「……どんな病気なんですか?」

「…………少しずつ記憶を失っていき、すべての記憶が消えたときに命を失う病気です。現在、かなり病気が進行しており会話もできません」


これが罰か。

りりあを傷つけた私への天罰なのか。

医者の言葉が、まるで冷たい刃のように私の心を突き刺さる。

すべての記憶が消えたときに命を失う。

そんな病気、聞いたこともなかった。

りりあがそんな目に遭うなんて、想像もしていなかった。

私は病院のベッドに横たわるりりあを見つめながら、ただただ涙が止まらなかった。

数カ月経っても、治療法は見つからなかった。

彼女の顔は穏やかだったけど、どこか遠くを見ているような、虚ろな目が胸を締め付けた。

記憶がなくなった分、精神年齢も下がっていく。

そう聞いた。

りりあは大人の姿をしているけど、心はもう4歳くらいなんだ。

きっと、中学に行かなくなったときから進行してたんだろう。


「りりあ、ごめんね……私のせいだ。私があんなこと言わなければ、こんなことには……」


私の声は震え、言葉にならなかった。

医者は「原因は特定できないが、恐らくストレスや心の傷が引き金になった可能性があります」と言った。

あの日の私の言葉が、りりあの心をどれだけ深く傷つけ、彼女をこんな状態に追い込んだのか。

考えるたびに、胸が張り裂けそうだった。

一年経っても、治療法は見つからなかった。

りりあの状態は悪化する一方だけ。

会話はできず、時折私の顔を見て小さく微笑むだけ。

でも、その微笑みは、かつてのりりあの明るい笑顔ではなく、力ないものだった。

医者によると、彼女の精神年齢はどんどん下がり、記憶が薄れていくたびに体も弱っていくという。

私は毎日、りりあのベッドの傍にいた。

彼女の好きなパンケーキの話をしたりした。

りりあは目を閉じて聞いているようだったけど、反応はほとんどなかった。

それでも、私は諦めずに語りかけた。

ある日、りりあが口を開いた。


「マ……マ……」

「りりあ……?りりあ!!」

「だいすき……だよ……」


数日後、りりあは静かに息を引き取った。

病院のベッドの上で、穏やかな顔で、まるで眠るように。

18歳の誕生日を迎えることなく、りりあの記憶はすべて消え、彼女の命も消えた。

私は彼女の手を握り、声を上げて泣いた。

りりあの死後、彼女の部屋に戻り、遺品を整理しているとき、机の奥に隠されていた一冊のノートを見つけた。

表紙には『ミラクルハッピー物語』と書かれていた。

りりあが最後に書いていた小説だった。

震える手でページをめくると、そこには名前が信じられないくらいダサい登場人物たちが恋愛をする物語が書かれていた。

物語は、恋愛を通じて互いを理解し、差別や偏見を乗り越えていく人々の姿を描いていた。

ヒロインがヒーローに不器用に想いを伝えたり、敵対していたキャラ達が心を通わせたり。

どのページにも、りりあの願いが詰まっていた。

みんなが自分を愛せる世界、どんな違いがあっても愛で繋がれる世界。

彼女の物語は、まるで現実の傷を癒すように、優しくて温かいものだった。

最後に書かれていたのは、すれ違っていたヒロインとその母親の和解。

母親はヒロインに「あんたは家族じゃない」そう言って、すれ違い続けてしまう。

けど、最後にしっかり和解をした。

物語はそこで途切れている。

ノートの余白になにか書いてることに気づき、私は手をどけた。


『お母さんと仲直りしたい』『物語のみんなを幸せにしたい』


それを見て、私は声を上げて泣いた。

あの日の私の言葉が、りりあの心をどれだけ傷つけたか。

りりあは歪んでもおかしくなかった。

それでも、彼女はこの物語を書いた。

仲直りを望んでいた。

たとえりりあに謝れても、私は自分を許せないだろう。

あの子を傷つけて殺したのは、他でもない私なんだから。


◇◆◇


王妃の話を聞きながら、私は涙が止まらなかった。

りりあの物語がこの世界を生み出し、彼女の傷と願いが私をここに導いた。

前世で自分を愛せなかったヒキニートの私が、りりあの夢を継ぐなんて、まるで運命のいたずらだ。

この物語を綺麗に終わらせられる自信はない。

でも、もしもこの世界にりりあさんが転生しているのなら、彼女が幸せになれる世界を私は作りたい。


「さ、暗い話になっちゃったわね。私の前世の名前は雛田小百合(ひなたこゆり)。あなたは?」

「私は……」


あれ?

私の前世の名前、なんだっけ?

私は苦笑いをした。


「前世のこと、うっすらとしか覚えてなくて……」

「あら、そうなの?……リディール、私はりりあと同じように、あなたのことも家族だと思っているの」

「え?知ってますけど」

「建国祭の演説の件、よく考えて後悔しない選択をしなさい。それじゃあ、紅茶ありがとう。おやすみ、リディール」


そう言って、小百合さんは部屋から出ていった。


「演説……か」

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