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第三話  行方不明の少女について学園長と話します

「大規模なテロ……」

「そうだ。精霊の魔力を奪う結界はそのための準備段階だ。結界で集めた魔力を何らかの形で利用するつもりだろう」

「でも、なぜ精霊の力を?嫌悪しているなら消し去るとか他に方法があるのではありませんか?」


学園長が言っていることは少しだけ矛盾している。

ヴァニタスは精霊の力を嫌悪し、排除しようとしている。

そんな人達がかき集めた精霊の力を魔法のために使うなんて、少し矛盾しているような……。


「確かにそうだな、でも、精霊の力なしで魔法を使うのは難しいから、矛盾じゃないと言えば矛盾じゃない」


あー……。

魔法は人間の魔力と精霊の魔力を掛け合わせて使うものだから、精霊がいないと魔法は使えないんだよね。

私の場合はリュミエールとかがいなくても、自分の中に二つ魔力が存在してるから支障はないけど……。


「ヴァニタスはなぜ我が国を狙っているんでしょうか」

「……恐らく、初めて魔法を使い始めた国がここだからではないか?」


この国は、人が精霊と契約という形で魔法を体系化した最初の国だ。

それまでは、精霊の気まぐれにすがるだけの曖昧な奇跡に近いものだった。

契約精霊を持たない人物も、基本的に精霊が呼びかけに答えれば魔法が使えるが、ごく稀に呼びかけに答えてくれないこともある。

学園長は静かに窓の外へ視線を向ける。

中庭では、生徒達が何も知らずに笑い合っていた。


「ヴァニタスにとって、それは罪なんだろう。本来、人は精霊に選ばれる存在であって、対等に扱うものではないとな」

「それを終わらせるために、ヴァニタスはテロを起こそうとしているのですか?」

「恐らくな。嫌悪しているものに執着してしまう。誰にでもある汚れた感情だ」


嫌悪しているものほど、強く執着してしまう……。

そんな感情は私にも覚えがあった。


「今のヴァニタスの狙いは……」

「この学園だろう」


即答だった。

この学園は魔学の最先端と言われ、ここを潰せば魔法の制御、コントロールなどを学べない。

魔力を持っていても、コントロールできずに宝の持ち腐れ状態になってしまう。


「奴らの狙いの中には恐らく君もいる」

「え……?」

「二つの魔力を内包し、精霊なしで魔法を成立させることができる存在。それはヴァニタスの思想を根本から否定する」

「……それって」


言葉が喉の奥で引っかかった。


「私が存在しているだけで、向こうの正しさを壊してしまう、ということですか?」


学園長は否定しなかった。


「だからこそ排除するか、利用するか。そのどちらかだろう」


静かな声だったが内容は重い。

利用……。


「ヴァニタスが本当に望んでいるのは、精霊の消滅ではない」

「……え?」

「確かにヴァニタスは精霊の力を汚れだと言っている。しかし、それは人間にとっての話だ。ヴァニタスは精霊に縋らずとも成り立つ世界を実現したいと思っている集団の集まりだ。だから人間にとって精霊の力は汚れだと主張しているんだ」

「それって世界のためにってことですか?」

「聞き方によってはそうだな」


人間が精霊に依存しない世の中。

まるで人間のためを思っているみたい。


「この世界は精霊の力を徹底的に研究し、支配し、使い尽くしている。使うのをやめろと言ってもそれは無理がある。ふだから彼らは精霊の力を消し去ろうと動いているのだろう」


矛盾している。

でも、筋は通っている。


「だから精霊を集め、魔法を使い、そして最後には切り捨てる。その世界を実現するためには精霊を消滅しなければならない」


胸の奥が、きゅっと締めつけられた。

もしそれが成功すれば、精霊は世界から居場所を失う。


「……リュミエールは、どうなるんですか?」


ぽつりとこぼれた問いに、学園長は一瞬だけ目を伏せた。


「目的から察するに、精霊は彼らにとっては不要な存在だろうな」


その答えで、十分だった。

中庭から聞こえる笑い声がやけに遠く感じる。

この平和がいつまで続くのか分からない。


「君に全てを背負わせるつもりはない」


学園長は、こちらをまっすぐ見据えた。


「だが、選択は近いうちに迫られる。守られる側でいるか、守る側になるか」


私はぎゅっと拳を握った。

精霊も、人も、どちらかを切り捨てる世界なんて……。

そんな正しさを認めるつもりはない。


「……答えはもう決まっています」


自分でも驚くほど、声ははっきりしていた。

学園長はほんの少しだけ、安堵したように微笑んだ。


◇◆◇


「あーあ、なんだか重い話になっちゃった……」


私は学園長室から教室に戻っていた。

足が重い……。

はぁ、帰ったらリュミエール達に話を聞いてもらおう。


「わぁあああ!!遅刻だぁあああ!!」

「え?」


私が曲がり角を曲がろうとしたら、誰かが突進してきて、ぶつかってしまった。


「いったたた……」


尻もちをついてお尻が痛い……。

私はお尻をさすりながら立ち上がった。


「だ、大丈夫?」

「うわぁあああ!!お嬢様にぶつかっちゃったよぉぉお!!ごめんなさい!ごめんなさい!!ごめんなさいぃいい!!」


や、やかましっ!


「い、いえ……。大丈夫ですから、そんなに謝らなくても……」


目の前の相手は涙目になりながらこちらを拝むようにしている。

制服は少し着崩れていて、肩から下げた鞄が床に転がっていた。


「ほ、本当に?怒ってない?罰とか減点とか……」

「しませんよ。私も前見てなかったですし」


そう言って鞄を拾って手渡すと、相手はぱあっと顔を上げた。


「や、優しい……!さすが上級生……!」


上級生扱いされるほど、私はそんなに偉そうに見えるのだろうか。

ていうか新入生だし。

さっきまで学園長と物騒な話をしていたせいで、表情が固かったのかもしれない。


「それより、遅刻なんですよね?」

「あっ!!そ、そうだったぁ!!」


慌てて廊下の時計を見るその姿は、さっきまでの暗い雰囲気が嘘みたいに慌ただしい。


「どこの教室?」

「えっと、初等部第三棟の一年Aクラスです!」


……だいぶ遠い。

ていうか同じ学年だった……。


「先生、怖い人?」

「めちゃくちゃ!!」


思わず苦笑してしまう。


「じゃあ、一緒に行きましょうか。私も戻らないとなので」

「え?一年生ですか?」

「ええ、一年Sクラス、リディール、セア・メッチャツオイです」


自己紹介をすると、女の子は固まった。

そして、小刻みに震え出した。


「おっ、おおおおおおおお王女殿下ぁぁああ!?」


そんなに驚く?

女の子は光の速度で土下座をした。


「申し訳ありません!申し訳ありません!申し訳ありませんんん!!」

「だ、大丈夫だから!!」


そう言ったけれど、声が若干引きつっていたのは自覚がある。

女の子は相変わらず土下座のまま、ぷるぷる震えている。


「で、ででででも王女殿下ですよね!?Sクラスで、名前がリディールで……」

「確かに、私は王女です。でも――」


一拍間を置く。


「この学園は身分関係差なんて関係ないし、私も気にしたくない。だから、特別扱いはいらないよ」

女の子は少し迷ったあと、こくりと頷いた。

「……じゃあリディール……さん?」

「うん、それでいい」


胸の奥が、少しだけ軽くなる。

王女という立場。

精霊なしで魔法を使える存在。

ヴァニタスに狙われる異質異質な存在。

全部私で、全部みんなと同じ人間。

だから、対等でいたいんだ。


「ところで、あなたの名前は?」

「え?わ、私ですか?」

「ええ、あなた」

「平民なんですけど……」


ああ、平民だからあんなに私に頭を下げていたのか。


「アッ、ペルセポネです」

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