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第一話  私の魔力はかなり異質らしいです

「じゃーん!訓練場が新しくなりました〜!!」


エルミナ先生がハイテンションで言った。

私達が壁に穴を開けたから、しばらくは工事で魔法の練習はできなかったんだよね。


「耐久性を確かめたいらしいので……アルくんと王女殿下、全っ力で魔法を打ってください」

「「え?」」


私とアルデーヌは間の抜けた声を出してしまった。


「いやいやいやいや、俺達がやったらまた穴あきますよ!?」

「前回のも手加減したつもりなのに、全力でなんて……。死人を出したいんですか!?」

「わー、魔法学園の実習で死人って言葉が出てきたの初めてー」


エルミナ先生は若干ドン引きしながら言った。


「大丈夫、生徒は私が守るし、壁には王立魔導師団で強力な結界を張るのが得意な方に、何十にも結界を張ってもらったのでそう簡単には壊れません!!」

「本当ですかね……」

「じゃあ、遠慮なく」


リディールとアルデーヌは顔を見合わせ、小さく頷いた。


「我が契約精霊よ、我に力を貸したまえ!」

「炎の精霊よ、我が呼びかけに応えよ!」


二人の口から、同時に詠唱が紡がれる。


インテンス(激しい)ストーム(嵐の)ウインド()!!」

ブレイズ(激しく燃える)ファイヤー(炎の)インフェルノ(地獄)!!」


凄まじい轟音と共に、光の奔流が訓練場の壁に激突する。

一瞬の静寂の後、訓練場を覆っていたはずの結界がガラスが砕けるような音を立てて崩壊した。

そして、さっきまであったはずの壁は跡形もなく消し飛び、遠くの森の木々がなぎ倒されるのが見えた


「ぎゃははははっ!!リディール様最っ高!!」

「まさか前回よりも酷いなんてねー!びっくり!」

「訓練場が吹き飛ぶ学校なんて聞いたことないわ」


メルリとオスカーは、目を輝かせながら歓声を上げた。

セレーネは呆然と立ち尽くし、口をあんぐりと開けている。

そして、エルミナ先生は……。


「……え?……あれ?……結界……は?……壁……は?」


先生は自分の目を疑うように消し飛んだ壁の跡地と、粉々に砕け散った結界の残骸を交互に見つめていた。

その顔はハイテンションだった数分前とは打って変わって、完全に魂が抜けたような表情になっている。


「エルミナ先生、大丈夫ですか?」


アルデーヌが心配そうに声をかけると、先生はゆっくりとアルデーヌの方を向いた。


「アルくん……。あのね、先生、『何十にも結界を張ってもらった』って言ったよね?」

「はい」

「『そう簡単には壊れません』って言ったよね?」

「はい」

「……これ、簡単だよね?」


先生の問いに、アルデーヌは言葉に詰まった。


「……ええと、その、リディール様と僕の魔力が、予想を遥かに超えていたということで……」

「いや、違う。問題はそこじゃない。この結界を張ったのは、王立魔導師団の中でも、結界術の第一人者と言われる『結界の賢者』と呼ばれる方よ。その方が『リディール王女の全力の魔法でも、三層は耐えられる』と太鼓判を押してくれたの」


結界の賢者……。

確か、王立魔導師団の幽霊団員だけど、結界の腕は誰よりもヤバいだとか噂のある……。


「三層……」

「そう。でも今、何十にも張られた結界が一瞬で完全に消滅した。これは、あなたの魔力が規格外というだけでは説明がつかないわ」


先生は私の肩に手を置いた。


「学園長に自首してきなさい」

「え、私だけですか?」

「アルくんはここまで魔力強くないもの」

「えぇ……」


◇◆◇


結局一人で学園長のところに行くことになってしまった……。

私がトボトボ歩いていると、噴水広間に誰かがいることに気がついた。

その誰かは、噴水のヘリに座って、噴水内の水を触っている。

私は噴水に近づいた。


「あの……」

「……!」


驚いたように私の顔を見た人は女性だった。

学園の関係者じゃないな。

怪しい……。


「あっ、私!怪しい者じゃないです!」

「ええ、分かっています。怪しい人はみんなそう言うんですよね」

「本当に違う!!」


あれ?

この胸元のブローチ、王立魔導師団の……。


「私、結界の賢者です」

「結界の賢者様ぁ!?」


やばい!

訓練場に結界を張ってくれたのは結界の賢者だ。

張られたばかり、それもそう簡単には壊れないと胸を張っていたらしい結界をぶち壊したばかりの私と対峙してしまった!!


「な、なんで結界の賢者様が学園に……」

「今日の朝に結界を張りに来たの。その後は学園長と談笑してたから」


あー……。

結界の賢者は私の顔をまじまじと見つめた。


「あなた、リディール王女殿下ですか?」

「はい」

「あなたが規格外の魔力を持つ、リディール王女ですね。たった今、私の結界を粉砕した張本人」


彼女の瞳には怒りではなく、純粋な興味とかすかな諦めが混じっていた。

あー、やっぱりバレてますよねぇ……。

結界は術者と繋がっていて、破壊されれば術者にすぐに伝わる。


「あの結界は私の最高傑作だったのに。魔法が結界にぶつかったら力を最大限に引き出す術式を組み込んだはずだけど……。魔法は精霊の力を借りて使うもの。本来なら結界の強度を増幅させるはずだったのに……」


結界の賢者は噴水の水面に指を這わせた。


「あなたの魔力は精霊の力を借りながら、精霊の力を否定する。まるで矛盾そのものね」

「……」


私は何も言えなかった。

彼女の魔力の異質さは結界の賢者にも見抜かれていた。


「あなたの魔力は精霊の魔力と人間の魔力、両方を兼ね備えている。それは知っているわね?」

「はい」

「通常、精霊の魔力を使う時は精霊から力を借りて自分の魔力と混ぜ合わせる。でも、あなたの場合は違う。精霊の魔力そのものを持っているから、精霊から力を借りる必要がない」


結界の賢者は立ち上がり、私の方に歩いてきた。


「つまり、あなたは精霊の力を借りているように見えて、実は自分の魔力だけで魔法を使っているだけ。だから、私の結界が精霊の力を増幅させようとしても、増幅させるべき精霊の力がない。結果、結界は単なる壁になってしまった。人間でありながら精霊。精霊でありながら人間。どちらでもあり、どちらでもない」


結界の賢者の言葉は、私の胸に重く突き刺さった。

私は先祖返りを起こした特別な存在だとは知っていた。

でも、それが結界の賢者が張った結界すらも無効化してしまうほどの異質さだとは思っていなかった。


「……つまり、私の魔力は、精霊の力を借りていないから、あなたの結界の術式が想定する『精霊の力』として認識されなかった、ということですか?」


私は絞り出すように尋ねた。

結界の賢者は私の目をまっすぐに見つめた。


「その通り。あなたの魔力は精霊の魔力そのもの。それは、精霊界と繋がった精霊契約者の魔力とは、根本的に異なる。私の結界は精霊界からの魔力の流れを増幅させるように設計されていた。しかし、あなたの魔力は精霊界とは無関係に、あなた自身の中に存在する。だから結界はそれをただの物理的な力として受け止め、耐えきれずに崩壊した」


彼女は静かに微笑んだ。


「面白いわね、リディール王女。あなたはこの世界の魔法の常識を、一人で覆してしまう可能性を秘めている」

「……あなたは、私の魔力のことを、どこまで知っているんですか?」


私は警戒心を露わにした。

この女性は私の最も深い秘密に触れている。


「知っているのは、あなたが思っているよりもずっと少ないわ。私はただの結界師。魔力の流れ、術式の構造、そしてその異変には敏感なの。あなたの魔力は、あまりにも異質で、不協和音を奏でている。だからこそ、私の結界は壊れた」


結界の賢者は、再び噴水の縁に腰掛けた。


「学園に精霊の魔力を奪う結界が張られたらしいわね」

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