第十八話 魔法学園に行方不明の少女がいるかもしれません
――数日後
あの件については、お父様に報告しなかった。
まだセティルド様がヴァニタスの一員であるかなんて分からないから。
セティルド様の件はまた調べるとして、今は目の前にいるカエルム夫妻と会話しなければ。
「……これで全員ですか?」
「ええ、王宮に出入りしている人、勤めている人の似顔絵や経歴はそこにある資料だけです」
私が言うと、伯爵と夫人は悲しそうな顔をした。
やっぱり愛娘が行方不明っていうのは結構辛いんだろうな。
アルデーヌの言う通り誘拐の可能性もあるけど……。
「あの、アストライア嬢が行方不明になる前、なにか変わったことなどは……」
「特になかったわよね?」
「ああ、何一つアストライアが嫌がることはしていない。なのに……どうして……」
アストライア嬢が行方不明になったのは二年前。
城下にも王宮にもいない。
箱入りのご令嬢が一人で生きているとは到底思えない。
だとすれば、残る選択肢は誘拐か保護。
「誘拐の可能性は……?」
「ありません!あの子は魔法を器用に使う子でした。簡単に誘拐されるとは思えないんです」
伯爵の言葉に私はハッとした。
魔法を器用に使う子
いや、流石に疑心暗鬼になりすぎてるか?
「えっと……器用な魔法、ですか。具体的にはどのような?」
私が尋ねると、夫人は涙を拭いながら答えた。
「特に、結界魔法に長けていました。複雑な術式も、どれだけ大規模な結界も一度見ればすぐに再現できるほどに。将来は王宮魔導士師団の結界術の要になると期待していたのですが……」
――精霊の魔力を吸い取って、誰かの力に変換するような……古の禁呪よ
――結界にわずかな乱れがあり、侵入の痕跡が残っていた
いや、まさかね。
ただの偶然だ。
なんともないはず……。
「あの、王女殿下」
「なんですか?」
「魔法学園にアストライアは通っているのでしょうか……。王女殿下と同い年なのですが……」
魔法学園にこの美形夫婦の娘が?
いやいやいや、ないない。
見たら絶対気づくもん。
「残念ながら、いないかと……」
そう答えると、二人は更に沈んだような顔をした。
夫人は顔を手で覆い、涙を流している。
私じゃ力になれない。
「やっぱりアストライアはあの子のことをまだ気にしていたのね!!」
「そんなはずないじゃないか。アストライアはあの子が死んだ時涙一つ流さなかったんだぞ?きっと別の何かがあるんだ。落ち着け」
あの子?
死んだ?
一体何の話だ?
もう一人家族がいたのか?
私は手元にあったカエルム家の資料を手に取り、ペラペラとめくった。
あ、本当だ。
アストライア嬢の他に、もう一人の娘がいると書いてある。
同じ年齢ってことは双子かな。
妹の名前の隣には無常にも「逝去」という言葉が書かれている。
「妹さんは亡くなられているんですか?」
「ええ、不慮の事故で……」
一枚資料をめくると、事故の詳細があった。
『カエルム伯爵家次女、ペルセポネ・カエルム嬢、魔力暴走事故により死亡。享年十歳。事故当時、長女アストライア嬢が現場に居合わせるも、結界魔法により難を逃れる。事故原因は、精霊の貸した力がペルセポネ嬢の体に合わず、自らの魔力と反発して起きたものと断定』
私は資料を読み終え、思わず息を飲んだ。
魔力暴走事故。
そして、自分の張った結界により難を逃れたアストライア嬢。
伯爵が言った「アストライアはあの子が死んだ時涙一つ流さなかった」という言葉。
涙を流さなかったのは絶望からなのかは分からない。
アストライア嬢の気持ちを知ることはできない。
考えていると、五時を知らせる鐘が鳴った。
「もうこんな時間ですか……」
夫人が時計を見て言った。
「今日はありがとうございました、王女殿下。また何か情報があれば教えていただけると嬉しいです」
「はい、もちろんです。私も全力で探させていただきます」
カエルム夫妻は深々と頭を下げて、応接室から出て行った。
私は一人残され、アストライア嬢の資料を見つめていた。
結界魔法に長けていて、双子の妹を魔力暴走事故で亡くした少女。
「……まさかね」
私は首を横に振った。
でも、心のどこかで引っかかるものがあった。
学園に張られた結界、王宮図書館への侵入。
そして、精霊の魔力を吸い取る古の禁呪。
全てが繋がっているような気がする。
でも、証拠は何もない。
ただの憶測に過ぎない。
「リディール様」
扉をノックして、アルデーヌが入ってきた。
「どうしたの?」
「いえ、カエルム夫妻が帰られたようなので」
アルデーヌは私の表情を見て、少し心配そうな顔をした。
「何か気になることでも?」
「……アルデーヌ、アストライア嬢について調べてもらえないかしら」
「アストライア嬢を?」
「ええ。行方不明になる前の友好関係などを」
アルデーヌは少し考えてから頷いた。
「分かりました。すぐに調べさせます」
「ありがとう」
アルデーヌが部屋を出た後、私は再び資料を見つめた。
アストライア・カエルム、十五歳。
「……私の考えすぎだといいんだけど」
私は資料を机に置き、深いため息をついた。




