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第十六話 魔法学園の学友はちょっと乱暴者です

シルビアは拳を握りしめて震えている。

メルリはシルビアの異変に気づいて声をかけた。


「シルビアをこっちに」


メルリはシルビアを抱き上げて、私の膝の上に置いてくれた。

シルビアは大人が苦手だと言っていた。

お父様やお母さんはともかく、初対面の大人が苦手だと。

恐らく、貧民街にいるときに大人に酷いことをされたのだろう。


「よしよし、怖かったね」

「よくこうなるの?」

「大人と会うとこうなるの」

「メイドでそれはかなり大変じゃない?メイドは年上が多いでしょうに」


セレーネが言う通りだ。

メイドはシルビアよりも年上の方が多い。

でも、シルビアを傍に置くには、専属メイドという方が外聞がいい。

だから、教育は年の近い子に頼んだ。


「できるだけ接触させないようにしてるの。シルビアには私やお兄様達の部屋を掃除してもらってるし」

「大変ね」

「ところで、オスカーはどうしたの?さっきからやけに静かだけど……」


私がオスカーの方に目を向けると、オスカーは鼻提灯を出して寝ている。

メルリがオスカーの腹を突くが、起きる気配がない。


「よくこんなに揺れる馬車の中で寝れるわね」

「昔からこうなの……」


メルリとオスカーは幼馴染らしく、いつもお互いにべったりだ。


「あ、着いたみたいだね」


目的としていた城下の大広間に馬車が止まった。

さて、オスカーを起こさないとだけど……。

私はオスカーの肩を掴んで少し揺らした。


「オスカー、起きて」


しばらく揺すっても起きない。

私はメルリの方を見た。

メルリは呆れたような顔をして、オスカーに近づいた。

そして、オスカーの頬をぶっ叩いた。


「オスカー、着いたよ」

「乱暴すぎだろ!」

「これくらいが丁度いいんだよ」

「メルリの目が据わってる……」


オスカーはかなり強く叩かれたにしては全然起きない。

なんで?


「首絞めたら起きるかな?」


そう言いながら、メルリはオスカーの首に触れようとした。

それをアルデーヌが羽交い締めにして止める。


「落ち着けメルリ!!」

「そんなことしたらオスカーが永眠しちゃうよ!!」

「死なない程度にやるので」

「やめろぉぉおおお!」


◇◆◇


「酷い目にあったぜ」


なんとかオスカーを起こして馬車から降りた私達は、もうすでにくたびれていた。

メルリは一体オスカーに何をされたのか。


「オスカーってば馬車で寝るのはもうやめてよね?私、幼馴染を手にかけるのはやだよ」

「殺る気満々じゃねーか」


オスカーはめちゃめちゃ楽しそうに笑った。

なぜコイツは笑ってるんだ?

多分メルリ以外がそう思っただろう。


「あ!王女殿下だ!」

「わぁ!本物のリディール様だぁ!」


久しぶりの城下は相変わらず賑やかで、活気に溢れている。

平民のための教育機関が増えて、この七年で城下の雰囲気も随分変わった。


「すごい人気ね、リディール」


セレーヌが少し驚いたように言った。


「まあ、色々やったからね」


シルビアが私のもとに来て、私の手をぎゅっと握りしめた。

人混みが怖いのだろう。


「大丈夫だよ、シルビア」

「……うん」


最悪リュミエールにシルビアを連れて帰ってもらおう。


「それで、リディール様はどこに行きたいですか?」


アルデーヌが訊いてきた。


「そうだなぁ……。せっかくだから、みんなで美味しいものでも食べない?」

「賛成!俺、この前新しくできたケーキ屋さんに行きたかったんだ!」


オスカーが目を輝かせた。

さっきまで寝てたくせに元気だな……。

メルリもセレーネも賛成したから、ケーキ屋に行くことになった。

私達は城下の通りを歩き始めた。

途中、何人もの人が私に声をかけてくれた。


「王女殿下、いつもありがとうございます!」

「娘が教育機関に通えるようになりました!」


私はそれぞれに笑顔で返事をした。

こうやって直接感謝の言葉を聞けるのは嬉しい。

公務をしている甲斐があったと思える。

ケーキ屋の店内は甘い香りで満たされていて、ショーケースには色とりどりのケーキが並んでいる。


「わぁ!どれも美味しそう!」


シルビアが目を輝かせている。

さっきまでの怯えた様子は嘘のようだ。


「シルビア、好きなの選んでいいよ」

「本当に!?」

「ええ、いくらでも頼んでいいからね。お金は全部お父様の懐から無限に出てくるから」

「可愛い顔してえげつないこと言わないでくれる?」


セレーネが私のセリフにツッコミを入れる。

だってずっと私正式に城下に降りれてなかったんだよ?

お金くらいは出してもらわないとね。

私達はそれぞれ好きなケーキを選んで、店の奥の席に座った。

オスカーはチョコレートケーキを三つも頼んでいる。


「オスカー、食べ過ぎじゃない?」

「いいじゃん!俺、甘いもの好きなんだから!」


ちなみに私はイチゴのショートケーキを選んだ。

フォークでケーキを切って口に運ぶ。

ふわふわのスポンジと甘酸っぱいイチゴ、そして程よい甘さの生クリームが口の中で溶けていく。


「美味しい……」

「でしょう?ここのケーキ、本当に絶品なのよ」


セレーネも満足そうに微笑んでいる。

みんなでケーキを食べながら、他愛もない話をする。

学園のこと、授業のこと、先生のこと。

こういう時間って本当に贅沢だな。


「そういえば、リディール様」


アルデーヌが少し真剣な顔で言った。


「先ほどの、カエルム家の娘さんの件ですが……」

「ああ、アストライア嬢ね」

「もしかしたら、誘拐の可能性もあるのでは?」


アルデーヌの言葉に私は少し考え込んだ。

確かに、数年前から行方不明ということは、単なる家出ではないかもしれない。


「その可能性もあるわね。王宮に戻ったら、お父様に相談してみる」


その時、店の入り口の扉が開いた。

入ってきたのはセティルド様だった。

セティルド様の姿を見て、勢いよくセレーネが立ち上がった。


「あ、リディール王女。誕生パーティー以来ですね」


セレーネなんて無視して、セティルド様は私に話しかけてきた。


「兄様……」

「何だレーネ。いたのか」

「今までどこにいらっしゃったんですか!!」


セレーネの叫び声に、ケーキ屋の中の客が一斉に振り向いた。


「セレーネ、落ち着いて。周りの人が見てるよ」


私はセレーネの肩を軽く叩いて、席に座るように促した。

セティルドは少し不愉快な顔をしている。


「お前には関係ないだろ?」


セティルド様の冷たい言葉に、セレーネの顔が強張った。

なぜ、魔法学園の寮にいるはずのセティルドの行方を、セレーネは知らないんだろう。


「関係ない……ですって?」

「ああ。俺が何をしていようと、お前に報告する義務はない」


セティルド様の態度は、誕生パーティーの時とは明らかに違っていた。

あの時は少し抜けているけど人当たりの良い王子様だったのに。

今は……。


「お母様もお父様も悲しんでいます!戻ってきてください!!」

「……お前、本当にしつこいな」


セレーネの言葉に、セティルド様は背筋が凍りそうになるほどの冷たい目をした。


「セレーネ」


私はセレーネの手を握った。

周りの客たちの視線が痛い。

このままでは、シシュナ王国の王族の醜態が噂になってしまう。


「セティルド様、少し二人でお話ししませんか?」


私が提案すると、セティルド様は少し考えてから頷いた。


「……リディール王女の提案なら従おう」


私達は店を出て、近くの路地に移動した。

アルデーヌとメルリ、オスカーとセレーネには店に残ってもらった。


「それで?何の話だ、リディール王女」


セティルド様の口調は私に対しては普通だ。


「さっきの二人の会話で分かりました。セティルド様、あなたは留年なんてしてませんね?」

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