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第九話  魔法学園の先生はアルデーヌを心から心配していました

エルミナ先生が教室を出ていくと、教室が静まり返った。

そして数秒後――


「ぶははははは!!」

「アルくんだって!!」

「コロスーゾ公爵家の嫡男があんなキャラだったなんて!!」


教室中が爆笑の渦に包まれた。

アルデーヌは机に突っ伏したまま微動だにしない。

そろそろ可哀想だな。


「……殺してください」

「……大丈夫?」

「大丈夫じゃないです……。やだぁ……もう学園来たくない……」


私はアルデーヌの頭をぽんぽんと撫でた。


「ドンマイ」

「慰めになってませんよ」


アルデーヌは顔を上げて、深いため息をついた。


「エルミナは昔からあんな感じなんです。俺が幽閉されてた時も、唯一会いに来てくれた親戚で……」

「え?じゃあ、見捨てたわけじゃないの?」

「はい。むしろ、毎日のように会いに来てくれて……。毎回抱きつかれたり、結婚しようって言われたり……。地獄でした……」


アルデーヌは遠い目をした。


「俺が異端児だった時、家族も親戚もみんな俺を避けたのに、エルミナだけは違った。でも、あの性格だけは本当に無理なんです……」


なるほど、そういうことか。

エルミナ先生はアルデーヌを嫌ってたわけじゃなくて、むしろ溺愛してたのか。


「じゃあ、教科書が届かなかったのは……」

「多分、俺だけに渡したかったんでしょうね。特別扱いというか……」


アルデーヌは頭を抱えた。


「一年間、あの人が担任だなんて……。地獄だ……」


アルデーヌの顔は心底参っているといった感じではない。

むしろちょっと嬉しいみたいな……。

しかも、エルミナ先生のあの態度……。

ちょーっと調べてみる必要があるな〜。


◇◆◇


「エルミナ先生」


私は職員室のようなところから出てきたエルミナ先生に声をかけた。

先生は少し驚いて、私にお辞儀した。


「先程はお見苦しいところをお見せしました」

「アルデーヌのことなんですが、あなたはアルデーヌのこと、過剰に好いているわけではありませんね?」


エルミナ先生は私の言葉に反応した。

少しの間沈黙が流れる。


「どうしてそう思われたのですか?」


先生の声は先ほど教室で聞いた甘ったるいものとは打って変わって、落ち着いたトーンだった。

まるで仮面を剥がしたような、クールで知的な響き。

やっぱり、私の勘は当たっていたみたい。

私は周囲に生徒がいないことを確認してから話を続けた。


「アルデーヌを特別扱いしようとしているのはわかりますが、あの抱きつき方や『婚約して〜』なんてセリフ……。本気で好きなら、もっと自然に振る舞うはずです。むしろ、アルデーヌをからかっているように見えました」


エルミナ先生は小さく息を吐き、眼鏡を押し上げた。


「ふふ、さすがは王太女殿下。洞察力が鋭いですね。はい、おっしゃる通りです。私はアルくんを過剰に好いているわけではありません。あの子は可愛い従弟ですが、私のタイプはもっと大人びた男性です」

「じゃあ、なぜあんなことを?」

「私なりの贖罪です」


エルミナ先生の表情が少し曇った。


「贖罪?」

「はい。アルくんが幽閉されていた時、私は……会いに行きませんでした」


先生の声が震えた。

会いに行かなかった……。


「家族や親戚、みんな彼を避ける中、私も同じように避けてしまったんです。怖かったんです。あの子の魔力がいつ暴走するか分からなくて」

「…………」

「でもある日、幽閉されている塔の窓から、アルくんの姿が見えたんです。一人で寂しそうに外を眺めている姿を」


エルミナ先生の目に涙が浮かんだ。


「その時、私は気づいたんです。アルくんは何も悪くない。ただ、魔力が強すぎただけなのに私達は彼を見捨てたんだって」

「それで……」

「はい。それから私は毎日のように会いに行きました。でも、アルくんは私を拒絶しました。『今更来ても遅い』って。当然ですよね」


当然……か。

アルデーヌはきっと、幽閉された当時は私が会った時よりも心を閉ざしていただろう。

初対面の時、アルデーヌは今の姿からは想像もできないほど冷たい目をしていた。


――ただの暇つぶしだろ?でなきゃ、王族が俺に構うなんてあり得ない


そりゃそうだよね。

自分の母親を自分の手で殺してしまって、その上父親にも煙たがられていたのだから。

それがどれほど辛いことか、私には想像もできない。

でも、これだけは分かる。


「アルデーヌはきっと、あなたには感謝をしていると思いますよ」

「なぜ?あんなにも嫌われているのに」

「アルデーヌは素直じゃないんですよ。私がアルデーヌに初めて会った時、確かに冷たい目をしていました。でも、私を心の底から拒絶しなかった。それは、あなたが根気強くアルデーヌに接してくれていたからじゃないんですか?」


そうだ、アルデーヌはもっと私を拒絶しても良かった。

なのに、心の底から拒絶せず、私と会話をしてくれた。

きっとそれは、エルミナ先生の存在があったから。


「アルデーヌの傍にいてくれて……ありがとう。私がアルデーヌのところに行くまで、アルデーヌを助けてくれていてありがとう」


エルミナ先生は泣きそうな顔をした。

彼女がいなければ、きっとアルデーヌはもっと冷たい人間になっていただろう。

エルミナ先生がアルデーヌに優しくしたから、会いに行ったから。

だから、彼はあんなにも優しい人になった。


「アルデーヌはもう自分で立つことができます。誰かの手はいらないんです」

「……そっか。私は過去のアルくんしか見てなかったんだ……」


エルミナ先生は涙を流して、微笑んだ。


「大きくなったね、アルくん……」


その視線の先には、私達の会話を盗み聞きしていたアルデーヌがいた。

彼の目も、赤くなっていた。

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