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第四話  魔法学園にはとんでもない結界が張られてました

馬車はまだ坂道を登り続け、木々の隙間から学園の建物がよりはっきり見えてくる。


「精霊から力を奪うってどういうこと?私、そんな結界聞いたことないよ」

『普通の結界じゃないわ。精霊の魔力を吸い取って、誰かの力に変換するような……古の禁呪よ。前精霊王の時代に封じられたはずのものがなぜここに……』

「それって学園関係者が張ってるものなのかな?」


私が訊くと、リュミエールは首を振った。


『言ったでしょ?古の禁呪だって。それに、この結界は大人が作ったものほど強力じゃない。おそらく、生徒の誰かが……』

「目的はなんだろう」

『さあね。でも、この結界が維持され続けるのはまずいわ』


確かにそうだ。

精霊界との断絶がなくなった今、上位精霊と契約する人間が増えるだろう。

精霊と人間は魔力を共有している。

魔力は命と同じだ。

魔力についての説明をもう一度しておこう。

魔法を使えば当然魔力は減る。

魔力が半分以上残っていれば、魔法が使える。

でも、魔力が半分以下になると魔法が使えなくなる。

半分を上回るまでは魔法が使えない。

でも、魔法が使えるときに魔力をすべて使い切ってしまったら?

この世界で魔力は瘴気に対抗するために、体に宿っている力だ。

少しでも残っていれば日常生活の中でも漂っている瘴気から自分の身を守れる。

そんな魔力がなくなってしまったら?

正気は魔力のなくなった人間の体を蝕み、やがて崩壊させる。


「この結界は精霊の魔力を吸い取って、誰かの力に変換するって言ったよね?その『誰か』っていうのは結界を張った本人?」

『おそらくね。魔力は生命力そのもの。無理やり精霊から魔力を奪い取るなんて、正気の沙汰じゃないわ」


人間は魔力を奪われても、よほどのことがなければ体に影響はない。

しかし、精霊は自分の意志で魔力を渡さないと、体に影響がある。

そういえば本で読んだ記憶があるわ。


「この結界の術式、かなり稚拙よ。強力な術者が張ったものではない。だからこそ、精霊の私でも感知できたのかもしれない』

「稚拙な術式で古の禁呪を再現した……。つまり、知識と魔力量だけは並外れた生徒が、何かを企んでいると」

『ええ。しかも、この結界は精霊と契約している人間にも影響を及ぼすわ。契約精霊が衰弱すれば、魔力を共有している人間にもその影響は必ず出る』

「……なるほど。精霊と契約している生徒を、学園内で弱体化させるための結界というわけね」


私は小さく息を吐き、思考を巡らせた。

この結界の目的は精霊の魔力を奪うことそのものよりも、精霊契約者を狙ったものだと考える方が自然だ。

王立魔法学園にはおそらく私を含め、精霊と契約している生徒が何人かいる。

面倒なことになったな。


「…………リュミエール」

『……?』

「あの結界、壊せる?」


リュミエールは私が極悪人のような笑みをしているのを見て、一瞬すごい顔をした。

しかし、リュミエールも極悪人のような微笑みを見せた。


『もちろん』

「姫様、学園に……」


ここまで連れて来てくれた業者さんが、扉を開けた。

そして私達の極悪人面を見た。


「ひぃぃいいい!!」


◇◆◇


「いやぁ、業者さんには悪い子としちゃったねー」

『面目ないわ』


私達は魔法学園の中心の噴水に来ていた。

リュミエールが「この辺は特に結界の軸が近い気がする」って言ったからここに来たんだよね。

リュミエールの探索機能はすごい。

万歳、リュミエール。


「さて、どうやって壊す?」


私は噴水の縁に腰掛け、リュミエールに尋ねた。

噴水からは清らかな水が流れ出ており、周囲にはまだ登校してきたばかりの生徒達がちらほらと見受けられる。


『術式が稚拙とはいえ、これは古の禁呪よ。ただの魔法で壊そうとすれば、反動でリディールが怪我をするかもしれないわ。ここは術式を解析して、逆流させるのが一番安全で確実ね』

「逆流か。つまり、結界が吸い取ろうとしている魔力を、こっちから結界の軸に叩き込むってこと?」

『ええ。結界は精霊の魔力を奪うように設計されている。その奪うはずの魔力が設計容量を遥かに超えて流れ込んできたらどうなるかしら?』


リュミエールは楽しそうに目を細めた。

その表情はまさに極悪人。


「面白いことになりそうだ。じゃあ私は精霊の魔力をリュミエールに供給すればいいんだ?」

『そういうことよ。私が合図したらそれまで以上の量の魔力を私に流して』


リュミエールが私に手を差し出してきた。

私はそれを握り、リュミエールはもう片方の手を噴水の中に入れた。


「リュミエール、準備はいい?」

『いつでも。遠慮はいらないわ。あなたの底なしの魔力をこの結界に浴びせてやりましょう』

「よし、いくよ!リュミエール!!」


私が魔力をリュミエールに注ぎ込むと、周囲の空気が一変した。

目に見えない、しかし圧倒的な力が私の体からリュミエールへと流れ込んでいく。

リュミエールはその魔力を受け止め、繊細な制御をもって噴水の地下深くに埋め込まれているであろう結界の軸へと送り込み始めた。

噴水の水が突然空に向かって噴き上がり、虹色の光を放ちながら、凄まじい勢いで周囲に飛び散る。


「な、なんだ!?」

「噴水が壊れたのか!?」


周囲の生徒達が、驚きと恐怖でざわめき始める。

その時、リュミエールが目を開いた。


『リディール!今よ!』


私はリュミエールからの合図を受け、一気に魔力を最大出力で叩き込んだ。

空を見ると、ぼんやりと見えていた結界がハッキリと姿を表した。

そして、空気を切り裂くような、凄まじい音が響き渡った。

結界がガラスのように割れていく。

破片は光の粒子となって消えていった。


『やっぱり稚拙な術式だったから、逆流させた魔力に耐えられなかったようね』


リュミエールは満足そうに微笑んだ。


「やったね、リュミエール!これで、精霊契約者も安心だ!」


私は達成感からリュミエールとハイタッチを交わした。

その直後、周囲の視線が私達に集中していることに気づいた。


「あれ、今のって……」

「王太女殿下と、そのお付きの人がやったのか?」


生徒達は呆然とした表情で私達を見つめている。

その中に見慣れた顔があった。


「あ!!おい、リディール!お前、朝っぱらから何やってんだ!」

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