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第七話  転生先で罪人を捕まえました

私は思わず笑ってしまった。

謁見の間にいる全員が私に向く。

ほぼ全員が不思議そうに私を見る。

ただ一人だけ鬼のような形相で私を睨んでいるクソババアがいる。


「何がおかしい!!」

「わからないんですか?」


私はクソババアの鬼のような形相を冷ややかに見つめ、ゆっくりと口角を上げる。

控えめで笑っているが、内心ではこの状況の滑稽さに笑いが止まらない。

私は挑発するような笑みを浮かべた。


「あなたが自分の立場をまるでわかってないのがおかしいんですよ。婚約者候補筆頭だった?だから何ですか?それがあなたに王妃の座を約束するものだと思っていたんですか?現実を見てください。あなたはただ、侯爵家の財力でその地位を買っただけ。行き遅れた老害であるあなたが王妃になるなど言語道断。それなのに、あなたはまるで自分が選ばれるべきだったと本気で信じてる。滑稽すぎますね」


私の言葉に、ババアの顔がさらに真っ赤になる。

まるで今にも爆発しそうな勢いだ。


「この小娘が! 王女だろうと、私を侮辱するなんて……!」

「侮辱?」


私は一歩前に出て、静かだが鋭い声で続ける。


「侮辱してるのはあなたの方でしょう。私の両親である国王と王妃を侮辱し、王女である私を騙し、革命派に引き込もうとした。それがあなたの『誠心誠意』ですか? 笑わせないでください」


謁見の間は一瞬、静まり返る。

国王と王妃は私の言葉に驚いたように目を見開き、アルカは頬を引きつらせてこっちを見てる。

ババアは唇を震わせ、必死に反論しようとする。


「そ、そんな……! 王女殿下、誤解です! 私はただ、あなた様を思って――」


ババアの声は震え、必死に弁解しようとするが、その目には焦りと動揺が隠しきれていない。

私はその様子を冷ややかに見据え、言葉を遮る。


「私を思って?またその言い訳ですか?」


私は静かだが刺すような笑みを浮かべる。


「幼い王女に、両親から嫌われていると嘘をつき、復讐を唆して革命派に引き込もうとした。それがあなたの私を思ってくれる気持ちですか?随分と歪んだ愛情表現ですね」


謁見の間は再び静寂に包まれる。

国王と王妃は私の言葉に驚いたまま、互いに顔を見合わせる。

アルカが「リディ、めっちゃ怖ぇ……」と呟くが無視をする。


「陛下! どうかこの小娘の戯言を信じないでください! 私は無実です!」


ババアが必死に叫ぶけど、国王の目は氷のように冷たい。

さっき本性を出したことを忘れているのだろうか。


「リディールの言うことが本当なら、決して許せん。衛兵、彼女を鞭打ちにして王宮を追い出せ」


衛兵が素早く動き、ババアの腕を掴む。

ババアは「離しなさい無礼者!!」と叫びながらジタバタするけど、誰も同情する気配はない。

衛兵の動きは迅速で、ババアを謁見の間から連れ出す。

国王が呟く。


「リディール、こんな目に遭っていたなんて思わなかった。すまない」

「お父様、それは気にしないでください。私に会いに来れなかった理由はわかりましたから」


私は二人に穏やかに微笑む。

リディールの記憶には、確かに両親への愛情が残っている。

嫌いになれなかったのは、リディールが心の底で信じていたからだ。

両親は自分を愛してくれているって。

国王が重い声で言う。


「リディール、親としてお前の気持ちを見ていなかったことを詫びる。このメイドの行為が本当なら、厳しく処罰する」

「ありがとうございます、父様」


こうして、リディールとアルカは久しぶりに両親との再会を果たし、罪人の断罪に成功した。


◇◆◇

――その夜


「なるほど、コロスーゾ公爵低でそんなことが……」


晩餐のとき、私とアルカはコロスーゾ公爵邸で起こったことを嘘偽りなく国王夫妻に話した。


「お父様、お願いがあります」


私は真剣な目で国王を見た。

国王は私の真剣さを察したのか、ご飯を食べる手を止めた。


「異端児差別の問題とちゃんと向き合ってください。アルデーヌ様のように、ただ早く魔法を使えるようになっただけで差別されるなんておかしいです」

「しかしリディール、異端児は無意識に人を傷つける。差別されてしまうのは仕方がないことだ」


国王の言葉に、私は一瞬言葉を失う。

仕方がない?

そんな言葉で片付けられる問題じゃない。

記憶に刻まれたアルデーヌの涙や、公爵の後悔、そしてアルフィーア様の優しい微笑みが脳裏をよぎる。

私は深く息を吸い、冷静さを保ちながら、でも心からの想いを込めて反論する。


「お父様、仕方がないなんて言わないでください。異端児が無意識に人を傷つけるかもしれない、それは本当かもしれません。でも、だからといって差別していい理由にはなりません。アルデーヌ様は、自分の魔力を制御できなかった過去を悔やんで、ずっと苦しんできました。それでも、彼は意図的に人を傷つけるような人間じゃない。ちゃんと制御を学べば、異端児だって他の人と変わらないんです」


私は一歩前に出て、国王と王妃を真っ直ぐ見つめる。

私が感じた理不尽さを言葉にぶつける。


「差別は、ただ恐れや無知から生まれるものだと思います。異端児が危険だという思い込みをなくして、ちゃんと彼らを理解する機会を作れば、悲しい思いをする人は減るはずです。アルデーヌ様と公爵の和解を見て、確信しました。この国を変えるには、まずその思い込みを変えないといけないと」


国王は私の言葉に少し眉をひそめ、考え込むように黙り込んだ。

やっぱり説得は無駄か?

そう思ったとき、王妃がそっと国王の手を握り、静かに言う。


「リディール、あなたの言う通りかもしれないわ。異端児差別はこの国に染み付いた欠点でもある。私達も、もっと考えてみるべきだったわ」


アルカが珍しく真剣な顔で口を挟む。


「父上、リディの言うこと、ちゃんと聞いてやってくださいよ。俺もコロスーゾ公爵邸で見たあの親子の和解。感動的だけど、あんなことになるのは悲しいし辛い。異端児だからって切り捨てるのは、なんか違う気がします」


国王はアルカの言葉を聞き、しばらく黙って考え込む。

ご飯を食べる場所に重い静寂が漂う。

私が感じた理不尽さを胸に、絶対に引かないと決めていた。

アルデーヌの涙も、公爵の後悔も、アルフィーア様の微笑みも、全部この国を変えるための理由だ。

やがて、国王がゆっくりと息を吐き、厳かな声で言う。


「リディール、アルカ。お前達の強い思いは受け取った。異端児差別は、長年続いてきた慣習だ。だが、慣習だからといって正しいとは限らない。お前たちの言う通り、恐れや無知から生まれた差別を見直す時が来ているのかもしれん。しかし、異端児差別を普通としてきたこの国で、完全にそれを消し去ることは難しいだろう」


その言葉に、私も納得してしまうところがあった。

長く浸透した思い込みを完全になくすなんて絶対に不可能。

何をしたって過激な人はいるのだから。

理想論だけじゃどうにもならないかもしれない。

でも、だからって諦めるわけにはいかない。


「リディール、お前に提案がある。来月の建国祭で演説をするのはどうだ?」

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