第十五話 国民を最高に喜ばせてやります
私達は昼食後正装に着替えて、何度も演説をしたバルコニーに向かった。
外にはもうたくさんの国民が集まっているだろう。
何回も演説とかしてるけど、やっぱり緊張するな。
「リディ、緊張してるかー??」
アルカお兄様が私に抱きついて訊いてきた。
「今にも心臓が口から出てきそうです」
「怖いわ」
お兄様は髪が崩れないように頭を優しく叩いた。
兄弟の中だとアルカお兄様が一番好きだなぁ。
「お前は演説で何度もバルコニーに立ってるんだろ?慣れないものか?」
エルディーお兄様が手袋を手につけながら私達のところに来た。
「慣れませんよぉ……。いつも内臓が口から全部出てきそうなのに……」
「表現方法気持ち悪っ」
気持ち悪いと言われても事実なんだよね。
内臓がポーンって出ていきそうなんだよ。
頑張って堂々としているけどさー。
「リディール、髪紐が斜めってるぞ」
「え?本当ですか?」
エルディーお兄様が私に近づき、髪についている髪紐を調節し始めた。
意外と器用なのかな。
直し終わったのか、エルディーお兄様は手を離して笑った。
「直ったぞ」
「ありがとうございます」
私もそれに応えるように微笑んだ。
お兄様は目を見開いた。
そして、なにか考えるような仕草をした。
「なぁ、リディール。リディアって呼んでいいか?」
「……?別にいいですけど」
「やった!」
エルディーお兄様はガッツポーズをした。
何がそんなに嬉しいんだか……。
そういえば、前世でよく考えていた。
なぜ主人公の名前は「クリスタ」なのに、「クリス」と呼ばれたりするのだろうと。
日本人はあだ名をつける時、最初の文字を抜き取ったりすることが多い。
「くーちゃん」や「くっちゃん」とかね。
だから、なぜ漫画の世界では途中までの愛称をつけるのか。
今ならわかる。
長いからだ。
「リディール」と呼ぶよりも「リディア」と呼んだ方が地味に短くなる。
まあ、アルカお兄様も私のこと「リディ」って呼んでるし、正直そんなに気にならない。
「にしても、エルディー兄様が急に丸くなってびっくりしたな。そう思うだろう?リディ」
「そうですね。きっかけが何かは知りませんが、仲良くなれそうでよかったです」
「ああ、お前達には本当に迷惑をかけたな」
お兄様は少し恥ずかしそうに言った。
「エルディーお兄様はもう王位継承順に異論はないんですか?」
「もちろんだ。母の願いは俺が幸せになることだからな。元々俺は王位に興味はなかったし、王位継承権を与えられる立場ではなかった。今国王になりたいかと問われても別にいいとしか答えられない」
私達は話しながらバルコニーへの長い廊下を進む。
朝の光がステンドグラスを通って、色とりどりの模様を床に落とす。
バルコニーにつくと、国民の話す声がたくさん聞こえてきた。
セラフィーお兄様は先についていたようで、魔法の本を読んでいる。
「なんだ、お前達は三人でここまで来たのか」
「はい、途中でばったり会いまして」
お父様はまっすぐお兄様に近づいた。
そして、お兄様の頭に手をおいた。
「よかったな。もう突き放す必要もなくなって」
「突き放す?」
アルカお兄様が不思議そうに訊いた。
「ああ、もう伝えてもいいか。実はエルディーは自分の復讐にお前達を巻き込まないために、あんな態度を取っていたんだ」
「だからリディがあんなに言われてても何も言わなかったんですね?」
「ああ、リディールも本気にしていないようだったし……」
お父様がちらりと私を見る。
まあ、気にはしてなかったけど……。
一度は注意はしてくれたし、攻める気にもなれない。
「今朝、お前がリディール達を突き放すのをやめると言うのは伝わったが、うまくやっていけるかは正直心配だった」
「父上、もう俺に心配は無用です」
お父様は目を見開いた。
「今まで、俺にとっての家族は母上しかいなかった。けど今はここにいるみんなが家族です!」
エルディーお兄様の嬉しそうな声と顔に、お父様は心の底から安心した顔をした。
お父様の目がわずかに潤み、お父様はゆっくりとお兄様の肩を抱く。
「エルディー……お前がそう言ってくれる日が来るのを、俺はずっと待っていた。お前は、姉上の子として、俺の息子として、ずっと家族だ。これからはみんなで幸せに生きていこう」
エルディーお兄様の目も赤くなり、二人は静かに抱き合う。
幸せそうな顔……。
私も思わず笑ってしまった。
◇◆◇
お父様は少し落ち着いてから、豪華な装飾が施されたマントを羽織った。
おー、これがイケオジかぁ……。
お父様がバルコニーに立った瞬間、国民から歓声が上がった。
正直、今まではここまで王族が好かれていることはなかったんだけどね。
平民差別が酷かったから、王家や貴族への信頼が低かったんだ。
お父様が手が挙げると、群衆の声が静まる。
「今日は我が国の未来に関する演説に集まってもらえたこと、心から感謝します。王位継承順が正式に決定されたため、今日はその発表をさせてもらおうと思っています」
広場に息を呑む音が広がる。
お父様の声が風の魔道具の力で増幅させられ、外に響き渡る。
「第一位、リディール・セア・メッチャツオイ」
「はい」
私はバルコニーに出て、お父様の隣で足を止める。
そして、お辞儀をする。
「第二位、アルカ・ミヤ・メッチャツオイ」
「はい」
「第三位、セラフィー・ゼア・メッチャツオイ」
「はい」
「第四位、エルディー・ルザ・メッチャツオイ」
「はい」
お兄様達も呼ばれてからバルコニーに出た。
三人は少し緊張しているな。
三人が握る手は、爪が手のひらに食い込むほど強い。
「契約精霊よ、我に力を貸したまえ」
私は小さな声で詠唱する。
「ウォーム・ヒーリング・ライト」
これでよし。
お兄様達の顔は見れないけど、強く握られた手が少し緩んだ気がする。
「――であると考えています。最後に、王位継承順位第一位の我が国の第一王女、リディール・セア・メッチャツオイから、みな様に報告があります」
お父様は魔道具を私に手渡した。
マイクに似てるよな、これ。
「みなさん、ごきげんよう。リディール・セア・メッチャツオイです。この度、正式に王位継承順位第一位に決定しました。正直、自分でいいのかと不安ですが、みな様が充実した生活を遅れるように精進していきますので、どうか今後とも、よろしくお願いします」
国民から拍手はない。
そりゃそうだ。
王族が話はこれで終わりだと言わない限りは、拍手をしてはいけない決まりだからな。
「そして、もう一つお話があります。今現在、この国には貴族の学校しかありません。そこで来年からは能力の高い平民も、王立貴族学校に入学することを可能にします。能力がなくても、平民の方々には学校へ行って、才能を活かしてもらいたいです。なので、新たに平民の学校を設立します!この改革は、必ずこの国をより良くしていくと思います!一緒に、笑顔あふれるメッチャツオイ王国を、作っていきましょう。ご清聴、ありがとうございました!!」
私の言葉が終わった瞬間、広場が爆発した。
それはただの歓声じゃない。
波のように広がる歓声、拍手、嬉し泣きの声、抱き合う人々の姿。
「王太女殿下、ありがとうございます!!」
「俺達も学べるのか!?」
私は騒ぐ平民達の中に、フォーカスを見つけた。
その顔は「よくやった」と言っているようだ。
私もその顔に、笑顔で返した。
◇◆◇
こうして、メッチャツオイ王国の第一王女の噂は、瞬く間に他国へと広がった。
メッチャツオイ王国の王太女にはどこの国の誰よりも国民思いで、国民も王太女を心の底から慕っていると。
メッチャツオイ王国の平民達が幸せに暮らしているという新聞は、国外にまでバラまかれた。
その新聞は、今まで平民を蔑ろにしていた他国の貴族や王族の手にも渡り、他国でも平民を大切にする動きが広がったとかそうでないとか。
これから先、メッチャツオイ王国が世界で一番安全で優しい国と呼ばれるようになるのは、また別のお話。




