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第十四話 エルディーお兄様は真実を知ることができました

「エルディー!!」


セルリア様が間一髪で止めに入った。

しかし、彼女の腕は肘から先が切れてしまった。


「……っ!」


痛みに表情が歪む。


「もう無理だ!これ以上は見なくていいだろ!」


エルディーお兄様が声を上げる。

振り向くと、酷く悲しそうな顔をしたお兄様がいた。


「いえ、まだよ。あなたが知りたいのはここから先のはず」

「何も知りたくない!今のままでいい!」

「しっかりしなさい!あなたは知る権利がある!知らないといけないの!」


エルディーお兄様は私が出した大声にびっくりしつつも、唇を噛み締めて再び目の前の光景を見続けた。


「……エルディー、あなただけでも逃げなさい」

「嫌だ!絶対に逃げません!」

「もういい、その女だけでも殺せ」


エルディーお兄様は母親から引き剥がされて、暗殺者に押さえつけられた。

幼い体がもがき、泣き叫ぶ声が山道に響く。


「母上!母上!!離せよ!母上、僕は母上と一緒にいたい!」


セルリア様の顔が痛みと愛情で歪む。

腕の傷口から血が滴り、ドレスを赤く染める。

クリフは冷笑を浮かべ、腕を組む。


「さっさとやれ。ガキの泣き声がうるさい」

「クリフ……あなたは、こんな人だったの?」


セルリア様の声は震えながらも強い。

クリフの目が一瞬だけ揺らぐ。

だが、すぐに嘲笑に戻る。


「お前がちゃんと女王にならないのが悪いんだぞ?お前のせいで、すべてが狂った」

「あなたは、最初から私を利用してたのね。あなたの言葉はすべて嘘だったの?」

「ああ、全部だ。お前の結婚は、俺の野心のためさ。エルディーも所詮はただの道具にすぎない」

「なら、許さないわ。あなたみたいなエゴで家族を壊す人を、私は死んでも許さない」


セルリア様は最後まで強くいようとしている。

なぜクリフはこの人を殺すことができたんだろうか。

セルリア様はエルディーの方を見た。


「エルディー……ごめんね。母上は……あなたを守れなかったわ。でも、生きて……」


突然、セルリア様の体から青い魔力が爆発する。

光の波が周囲を包み、暗殺者たちを吹き飛ばす。

エルディーお兄様の周囲には結界が張られ、お兄様を護る。


「母上!!」

「逃げて、エルディー!護衛が来るまで走って!」


光の中でセルリア様の姿が薄れる。

魔力の消耗、傷の痛み。

彼女は最後の力を振り絞り、クリフに視線を向ける。


「クリフ……あなたは、きっと後悔するわ。本当の愛を知らずにね」


クリフの顔が初めて青ざめる。


「くそっ、何だこの光は!暗殺者共、早く殺せ!」


剣がセルリア様の胸を貫く。

しかし、魔力の暴走は止まらない。

溢れ続ける魔力は暗殺者を殺した。

そしてクリフも倒れた。


「母上……」


光が収まると、セルリア様は最後の力を振り絞って魔法と言葉を放った。


「エルディー……愛……してる……どうか……幸せに…………」


セルリア様が最後に放った魔法は、エルディーを眠らせた。

そして、セルリア様も静かに息を引き取った。


「う、嘘だ!!」


エルディーお兄様が声を荒げた。


「嘘だ!母上は俺に『国王になって仇を取って』って言ったんだ!」

「いいえ、それは間違いよ。今あなたは目の前で見たでしょう?あなたの母は復讐を望んでない」

「じゃあ何だ!?この記憶は何なのだ!!」


私はもう一度幼いエルディーお兄様に目を向けた。

眠っているエルディーお兄様に、体を引きずりながら近づくクリフがいた。


「せめて……コイツが幸せになれないように……記憶を変えてや……る……」


そうしてこの場にいたエルディーお兄様以外の人間が死んだ。


「彼のせいであなたの記憶は改変されてしまった」


私の言葉が記憶の世界に静かに響く。

エルディーお兄様は地面に膝をついて、呆然と空を見上げる。

その瞳には混乱と痛みが渦巻いている。


「記憶を改変?母上は復讐なんて願ってなかった……?俺に、国王になって仇を取れって言わなかった?」


お兄様の声は震えていた。

幼い頃のトラウマがクリフの最後の呪文でねじ曲がり、憎しみを植え付けられた。

平民を軽んじる発言、王位への執着、家族への苛立ち。

あれらはすべて、あの男のエゴの産物。

私はお兄様の隣にしゃがんで、そっと手を握る。


「言ってないよ。あなたのお母様は最後まであなたを愛してた。『幸せに』って願ってた。聞いてたでしょ?」

「…………」

「あなたの父親は死ぬ間際に記憶を歪めて、復讐の種を植えたんだ。あなたが王位にこだわるのは、その呪縛のせい。平民を憎むのも、家族を傷つけるのも……すべて、偽りの記憶のせいよ」


お兄様の肩がびくっと震える。


「……俺は……ずっと間違ってたのか?母上の願いを踏みにじってたのか……?」

「違うよ。お兄様は被害者。クリフのエゴに操られてただけ。でも今、真実を知った。呪縛は解けたよ。ねぇ、あなたはどうしたい?」


お兄様は地面を見つめ、ゆっくりと息を吐く。

その手が、私の手を強く握り返す。

冷たかった指先が震えを失い、温かさを取り戻す。


「俺は……母上の願いを叶えたい。復讐じゃなく、幸せを……家族を守りたい。誰か一人が罪を犯したからといって、平民全員が悪者ってわけじゃないもんな」

「うん」

「母上が愛したこの国を、今の家族で幸せにするんだ」


お兄様の声はかすれながらも力強かった。

それは、クリフの呪縛が解けた証。

偽りの憎しみが愛に変わった瞬間。

私は微笑み、お兄様の頰をそっと拭う。


「うん、それでいいよ。あなたは王子として、兄として立派だよ。みんなが自分を愛せる世界を一緒に作ろう」


お兄様は立ち上がり、私を立たせた。

私達は手を繋いだまま、空を見上げる。

次の瞬間、記憶の世界に亀裂が入った。

私はエルディーを見て微笑んだ。


「お別れだ」

「リリア」

「何?」

「ありがとう」


私に向けてお礼を言ったことに酷く驚いた。


――リディール、あの子は今はあんな状態だが、昔は素直で優しい子だったのだよ


ええ、お父様。

確かに彼は素直で優しい人です。


「リリア、君は一体何者なんだ?」

「秘密だよ。女性は秘密を持つからこそ美しくなるの」

「何だそれ」


エルディーお兄様が笑いながら言った。

始めてみた笑顔は、すごく柔らかくて優しかった。

エルディーお兄様は私の頭を優しく撫でた。


「目が覚めたらお前を探すからな」

「ええ、待ってるわ」


きっと見つけられないでしょうけど。


◇◆◇


私はエルディーお兄様のベッドの上で目を覚ました。

夜だったはずの外は、もう朝日が出ている。

よし、成功したな。

私はお兄様に気づかれないようにベッドから降りて、部屋を出た。

廊下にはお父様がいた。


「終わりましたよ」

「ああ、終わったか。まさか本当に精霊の上位魔法を使うとはな」

「私は精霊に近い存在らしいので」


お父様は軽く笑い、廊下の窓から朝日を眺める。

その横顔はどこか安堵の色を帯びていた。


「本当に恐れ入るよ。エルディーに過去の記憶を見せるなんてな……。きっと姉上も喜んでるだろう」


私はお父様の隣に立ち、朝の空気を吸い込む。

王宮の庭園では鳥のさえずりが響き、花々が朝露に輝く。

夜通しの魔法魔法を使っていたから、疲れが体に少し残るが、心は軽い。

あの世界で見たあの柔らかな笑顔。

きっと、これからは現実でも見られるはず。


「これから、お兄様は復讐じゃなく、誰かの幸せを願うようになるでしょう。平民を憎むのも、家族を傷つけるのも、きっともうしないです」


お父様はゆっくりと頷き、私の肩に手を置く。


「お前がいなければこの家族はもっとバラバラだった。姉上の忘れ形見を救ってくれてありがとう」

お父様はいつもに増して優しい笑みを浮かべた。

「王位継承の発表は今日だ。エルディーがどう出てくるか……楽しみだな」

「そうですね」


ねぇ、エルディーお兄様。

私は知ってるよ。

お兄様が自分の復讐に私達を巻き込まないために、私達に嫌われるような行動を取っていたことを。

これからは気兼ねなく話せるね。

私は思わず笑みをこぼした。

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