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第十三話 エルディーお兄様と過去を見ます

「……セルリア姉様、すみません。代わりに行ってもらうことになって」


そう言ったのは、エルヴィス・ザナ・メッチャツオイ。

現メッチャツオイ王国の国王で、リディールの父親だ。


「あら、まだそんなこと言ってたの?もう、エルヴィスったら生真面目なんだから」


笑ってお父様の背中を叩くのはお父様の姉、セルリア・シア・メッチャツオイだ。

彼女達は自身の家族と隣国へ視察に行こうとしていた。

その中にはもちろんエルディーお兄様もいる。

セルリア様はお父様に呆れたような目を向ける。


「別に構わないと何度も言っているでしょう?ちょうど家族で旅行したかったし」

「しかし……」

「先方からわざわざ家族で行く許可をもらってくれたのはどこの誰だったかしら?」

「それは……」


からかうように笑うセルリア様は明るい方というイメージを持った。

エルディーお兄様を見ると、少し辛そうな顔をしている。


「リリア、ここはなんだ。なぜ母上が生きている?」

「ここは記憶の世界。あなたに本当のことを教えたくて、微精霊の記憶を見せてもらってるよ」

「本当のこと……?」


エルディーお兄様は不審そうな顔をした。

まあ、そうだよね。

初めましての人が「あなたに事実を伝えます」なんて言っても聞いてもらえないよね。


「さ、そろそろ出発するみたいだよ。行こうか」


私はもう一度エルディーお兄様の手を取った。

しかし、私が歩こうとしても彼は歩かなかった。


「どうしたの?来ないの?」

「……行きたくない。どうしてあんなものを思い出させようとするんだよ。真実なんてどうでもいい。俺にあの光景を見せないでくれ」


エルディーお兄様があまりにも悲しそうな顔をする。

そりゃ嫌だよね。

自分のトラウマだもん。

私は握っているエルディーお兄様の手に力を加えた。


「逃げたままでいいの?向き合わないと何も変わらない。私はあなたの認識が合ってるかのどうか、教えてあげるって言ってんの」

「でも…………」

「いつまでも過去に囚われるのはやめなさい。大事なのは過去より未来よ。向き合いなさい。自分のせいだと思うから、あの悲劇と向き合いなさい」


私の言葉で、エルディーお兄様はようやく動いてくれた。

お父様いわく、記憶の世界では自由にいろんなことができるらしい。

人には見えないし、なんなら空も飛べるって。


「行こう、エルディー」


私はジャンプして、空を飛び始めた。


「なんで魔法なしで空を飛べてるんだ?」

「この世界はなんでもできるの。祈れば空だって魔法なしで飛べちゃうんだよ」


しばらく飛ぶと、先に出てしまった馬車にやっと追いついた。

エルディーお兄様の手が少し震えている。

怖いよね。

でも、あなたには向き合ってもらわないと困るの。


「エルディー、あなたはどうして王位にこだわるの?」

「…………母さんの願いなんだよ。俺はメッチャツオイ王国の国王にならないといけない。あの男の仲間に復讐するために」

「あの男の仲間って……」


私が聞こうとすると、遮るように悲鳴が聞こえてきた。

馬車は止まり、馬車の周りには暗殺者の格好をした人達がたくさんいる。

誰かが雇った暗殺者……。

馬車に乗っていたセルリア様とその夫、そしてエルディーが暗殺者によって外に引きずり出された。

私達はその間に地面に降りた。


「あなた達、何が目的?」

「お前らを殺すことが目的だ」

「誰の差金かしら」

「言うわけないだろう。なんのために暗殺者がいると思っているんだ」

「自分の手を汚さずに、他人に手を汚させるため。でしょう?」


挑発するような笑みを向けるセルリア様に、暗殺者は眉をひそめた。

まあ、実際そうだからね。


「どうせあなた達は私を逃す気はないのでしょう?なら、雇い主くらいは教えてくれてもいいんじゃない?」

「…………」


暗殺者はセルリア様の夫に目をやった。

彼はうなずいて立ち上がり、暗殺者に歩み寄った。


「やっと邪魔者が消える」

「は?クリフ……?」


セルリア様の夫、クリフは平民だった。

お忍びで城下を訪れたセルリア様と出会って、恋に落ちたそうだ。

クリフはセルリア様が城下を訪れるたびに、彼女のお供をして、ついには結婚した。

しかし、クリフは平民で、セルリア様は王女だ。

そんな彼らの結婚は決して祝福されなかった。

そんな状況でも相思相愛な彼らは色んな意味で社交界では注目の的だった。

本当の相思相愛は身分を超えるのか、と。

しかし、クリフからのセルリアへの愛は表向きのものだった。


「お前がもしかしたら王女になるかもしれないという噂を聞いたから結婚したのに、候補にも入っていなかったとはな」

「ク、クリフ……?」

「俺はお前が邪魔で邪魔で仕方なかった。王にもなれなかった出来損ないが、俺と相思相愛?ふざけるのも大概にしろ。俺は国王になりたかったのに」


セルリア様は目を見開いた。

そこから涙が出るまでにはそこまで時間はかからなかった。

愛していた夫に裏切られたのだから、無理もない。


「今までのは嘘だったの……?」

「ああ、全部嘘だよ。家族ごっこは楽しかったか?」

「そんな……」


セルリア様はうつむいて涙を流している。

幼いエルディーお兄様がクリフとセルリア様の前に立ちはだかった。


「母上をいじめるな!!」


エルディーお兄様の目は怒りに満ちており、まっすぐとクリフを捉えている。


「エルディー、残念だよ。父様の方に着いてくれたのなら可愛かったというのに。本当に残念だ」


クリフはエルディーお兄様の頬を殴った。

幼いエルディーお兄様は痛みのあまり泣き出してしまった。

クリフは舌打ちをして暗殺者に命じた。


「おい、とっととこのガキを殺せ」


暗殺者はうなずいて、エルディーお兄様の前に立った。

そして、剣を振り上げた。

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